【ISO14001】8.2 緊急事態への準備及び対応(2)

緊急事態に備え、対応しよう

(前回の続き)

緊急事態への計画的な対応

想定される緊急事態への対応においては、そもそもそれが発生しないようにするための予防的対策と、それが発生してしまったときにそれによる被害を最小限に食い止めるための事後的な対策があります。

 

緊急事態が発生したときは、計画したプロセスに従って対応し、有害な影響を防止・緩和するための処置を実施する必要があります。いくらあらかじめプロセスを明確にしていても、いざというときにそれを実施することができなければ意味がありませんので、実行できる場合はそのプロセスをテストすることが必要です。その場合、できるだけ想定した緊急事態の状況に即して実施し、そのプロセスが本当に計画した通りに実行できるかどうかを検証することが重要でしょう。

 

さらに、定期的に、そして緊急事態発生後やテスト実施後に、計画した対応のプロセスが適切かどうかをレビューし、必要に応じて改訂しなければなりません。緊急事態の発生時やテスト実施時にプロセスの不具合が発見された場合にそれをレビューして改訂することはもちろんですが、定期的にもレビューすることを要求しているのは、組織の状況の変化(要員、設備、使用している物質、外部的な環境の変化など)によって当初想定していたプロセスが機能しないということのないようにするためです。

利害関係者に対する関連情報と教育訓練の提供

f)の「必要に応じて、緊急事態への準備及び対応についての関連する情報及び教育訓練を、組織の管理下で働く人々を含む関連する利害関係者に提供する」ことは、以前のISO14001にはなかった新たな要求事項です。緊急事態の準備・対応に関する情報や教育訓練を組織の管理下で働く人々に提供する必要があることは当然ですが、その他の関連する利害関係者にも提供する必要がある場合があることにも注意が必要です。

 

1984年12月にインドのボパールで発生したユニオン・カーバイド社の化学工場事故は、数万人の死傷者を出し、PRTR制度導入のきっかけともなった最悪の事故ですが、周辺住民や医療機関に事前の適切な情報開示があれば被害をより小さくすることができた可能性があったと言われています。このような事例からも、緊急事態に関する事前の適切な情報開示や教育訓練の提供が非常に重要である場合があることが理解できるでしょう。

事故後のボパール化学工場

プロセスの文書化要求

ISO14001:2015では、4.4及び8.1で「プロセスの包括的な要求」がされ、その他の項目ではいちいち「プロセスの確立」は要求されていないと述べましたが、この項目では改めて「プロセスの確立」が要求されています(このような個別の「プロセスの確立」の要求は、他に6.1.1、7.4.1、9.1.2で見られます)。そしてこの項目ではさらに、そのプロセスの実施に必要な「文書化した情報」の維持も要求されています。実際には多くの組織で「緊急事態対応手順」のような形で文書化されていると思われますが、このような点からも、この規格が緊急事態への準備と対応を重視していることが分かります。

 

さらに、緊急事態への準備・対応のプロセスや計画は「文書化した情報」として維持、保持することも要求されています。具体的には、「緊急事態対応手順」のような文書として「維持」することになるでしょう。

書籍:「ISO14001:2015 完全理解」

今回初めての大改定となったISO14001:2015。
その背景には、めまぐるしく変化する社会情勢や、
その影響が無視できないほど大きくなりつつある地球環境の変化があります。
本書では各要求事項をその意図を含めて解説することで、
用語にとらわれない、要求事項が組織に求める「本質」を明らかにしていきます。