【ISO45001】 6.1.1 (リスク及び機会への取組み)一般(3)

マネジメントシステムをリスクに基づいて戦略的に計画しよう

(前回の続き)

リスク・機会の4つの分類

更に、リスク・機会を特定するに当たって「考慮に入れる」べきこととして挙げられた事項に関連して、特に注意していただきたいことがあります。それは、ISO45001では他のマネジメントシステム規格と異なり、「リスク」「機会」をそれぞれ2つに分け、以下の4つに分類している、という点です。

① 労働安全衛生リスク
② 労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク
③ 労働安全衛生機会
④ 労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会

そして、①と③については、それぞれ以下のように定義されています。

  • 「労働安全衛生リスク」・・・「労働に関係する危険な事象又はばく露の起こりやすさと、その事象又はばく露によって生じ得る負傷及び疾病の重大性との組合せ」(3.21)
  • 「労働安全衛生機会」・・・「労働安全衛生パフォーマンスの向上につながり得る状況又は一連の状況」(3.22)

これを見ると、ISO45001では「リスク」をマイナス、「機会」をプラスの意味として、ある意味割り切って捉えていると考えられます。従って、私たちもISO45001:2018を読む際には、「リスク」の元々の定義にあまりこだわることなく、「リスク」をマイナス、「機会」をプラスのものとして捉えれば良いでしょう。なお、上記①と②は以下の6.1.2.2、③と④は6.1.2.3でそれぞれ個別に規定されていますので、詳細はそれらの項目で説明しますので、ここではISO45001では「リスク及び機会」を4つに分類している、ということを理解してください。

イラスト

2つのレベルの「リスク・機会」

変更に伴うリスク・機会の評価

またここでは、組織や組織のプロセス、労働安全衛生マネジメントシステムの「変更」に伴うリスク・機会を決定し、評価することが求められています。そして更に、この変更が計画的なものである場合は、それが一時的な変更であっても、その変更前に評価を行うことが要求されています。これはISO45001に特徴的な要求事項であり、注意が必要です。具体的には、参照されている8.1.3で列挙されている以下のような変更について特に考慮すべきでしょう。

・ 新しい製品・サービスやプロセス、または既存の製品・サービスやプロセスの変更
・ 法的及びその他の要求事項の変更
・ 危険源や労働安全衛生リスクに関する知識や情報の変化
・ 知識や技術の発達

リスク・機会に関する文書化要求

この項目の最後には、リスク・機会に関連した文書化要求について規定されています。ここでは、以下の2つに関して文書化した情報を維持することが必要です。

  • 取り組む必要があるものとして特定されたリスク・機会
  • リスク・機会を決定し、対応するのに必要なプロセスと取組み

言い換えると、前者は、6.1.2.2と6.1.2.3の要求に従って特定されたリスク・機会を文書化することであり、後者は、6.1.2(危険源の特定とリスク・機会の評価)、6.1.3(法的及びその他の要求事項の特定)、6.1.4(リスク・機会への取組み)をどのように行うかの「プロセス」と、特定したリスク・機会にどのように取り組むのかを文書化することと言えます。

OHSAS18001に基づく労働安全衛生マネジメントシステムを運用している組織では、危険源の特定や労働安全衛生リスクの評価のプロセスや、法的及びその他の要求事項を特定するプロセスについては既に文書化されているところが多いでしょう。その場合、それらの文書はここで要求されている「プロセスの文書化」の一部に含まれると考えられます。ただしその場合でも、ISO45001の新しい要求である「その他のリスク」や「機会」については、それを評価するプロセスの文書化を新たに検討する必要があるでしょう。