【ISO45001】 6.1.1 (リスク及び機会への取組み)一般(2)

マネジメントシステムをリスクに基づいて
戦略的に計画しよう

(前回の続き)

何のために「リスク・機会」を特定するのか?

では、何のために「リスク・機会」を特定する必要があるのでしょうか。この項目では、その目的として、以下を挙げています。

  • 労働安全衛生マネジメントシステムが意図した成果を達成できる確信を与える。
  • 望ましくない影響を防止・低減する。
  • 継続的改善を達成する。

「望ましくない影響」というマイナス面の防止・低減だけでなく、「意図した成果」や「継続的改善」といったプラス面の達成も目的とされているところに、労働安全衛生マネジメントシステムを「守り」だけでなく「攻め」にも活用して欲しいというISO45001の思いが読み取れます。なお、「望ましくない影響」には労働関連の負傷や疾病、法的要求事項の不順守、評判の棄損などがあり得ます(附属書A.6.1.1参照)。

リスク・機会の特定で考慮すべきこと

それでは、リスク・機会を特定するに当たって、組織はどのようなことを考慮すべきなのでしょうか。この項目では、まず以下の3つを「考慮すべき」こととして挙げています。

  • 4.1(組織の状況)で言及された内部・外部の課題
  • 4.2(利害関係者)で言及された要求事項
  • 4.3(適用範囲)で言及された要求事項

更に、リスク・機会を特定する際に「考慮に入れるべき」こととして、以下の4つも挙げられています(なお、「考慮する」と「考慮に入れる」の違いについては、「ISO9001:2015誌上講義 『考慮する』と『考慮に入れる』はどう違う? ~コラム4:規格の文言に隠された意図」を参照してください)。

  • 危険源(6.1.2.1参照)
  • 2つのリスク(労働安全衛生リスク・その他のリスク)(6.1.2.2参照)
  • 2つの機会(労働安全衛生機会・その他の機会)(6.1.2.3参照)
  • 法的要求事項及びその他の要求事項(6.1.3参照)

ここで6.1.2~6.1.3の各項目が参照されていることからも分かるように、詳細は以降のこれらの項目で規定されています。

4.1, 4.2と「リスク・機会」との関係

これらの考慮しなければならない事項のうち、まず4.1, 4.2がリスク・機会とどのように関係するのかについて見てみましょう。それぞれの項目のところで説明したように、4.1の内外の課題や4.2の利害関係者の要求事項から「組織の状況」が分かります。そしてその「組織の状況」は、「現在の」課題や要求事項に基づく「現在の」状況です。それに対して、「リスク・機会」は「将来の」可能性に言及していると考えられます。つまり、4.1や4.2を元にして明らかになった現在の状況に基づいて考えたとき、将来良いことも悪いことも含めてこんなことが起こるかもしれない、ということが「リスク・機会」ということになるでしょう。

ピーター・ドラッカーはこう言っています。

「未来について言えることは、二つしかない。第一に未来は分からない。第二に未来は現在とは違う」(『創造する経営者』)

「未来」は誰にも分かりません。しかし、経営者はその分からない未来に対処していかなければなりません。ではどうしたら良いのか。ドラッカーは「すでに起こったこと」を観察すれば、それがもたらす帰結として未来が見えてくると言い、これを「すでに起こった未来」と呼んでいます。

これになぞらえれば、4.1や4.2に基づく「組織の状況」が「すでに起こったこと」であり、それを観察することで見えてくる未来の可能性がここで言う「リスク・機会」ということが言えるでしょう。

(次回に続く)