【ISO45001】6.1.4 取組みの計画策定

リスク・機会にどのように取り組むかを計画しよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「組織は、6.1.26.1.3で特定したリスク・機会にどのように取り組むかを計画しなければならない」ということです。6.1.2〜6.1.3でリスク・機会が特定されましたが、これらを特定しただけでは意味がありません。ここで特定された「リスク・機会」は、組織がその労働安全衛生マネジメントシステムが意図した成果を達成するために取り組むべき優先事項ですので、それに対して確実に取り組むために、計画を立てる必要があるのです。

何を計画するのか?

それでは、ここでは何を計画することが要求されているのでしょうか。まずa)にあるように、以下に対してどのように取り組むかを計画することが求められています。

  • 6.1.2.2で特定した「リスク」(「労働安全衛生リスク」と「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク」)
  • 6.1.2.3で特定した「機会」(「労働安全衛生機会」と「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」)
  • 6.1.3で特定した「法的要求事項及びその他の要求事項」

 

そして、b) 2)で要求されているように、「取組みの有効性の評価の方法」についても計画の段階で明らかにすることが必要です。同様の趣旨の要求は、6.2.2のe)にもありますが(労働安全衛生目標に関する結果の評価方法を計画段階で決定する)、これは、「何をすればよいか」だけでなく、「結果がどうであればよいか」までを計画の時点で具体的にすることで、意図した成果を得ることの確実性を上げることを意図しており、ISO45001規格の大きな特徴の一つである「パフォーマンス重視」の考えが現れた要求と言えるでしょう。

どのように計画するのか?

それではこれらをどのように計画した良いのでしょうか。これについては規格が具体的な手法を要求しているわけではありませんが、b) 1)で言われているように(「事業プロセスへの統合」)、できるだけ自分たちの既にある仕組みの中に取り入れていく方法で、計画することが重要でしょう。

 

つまり、この規格の要求事項に対応するためだけに「リスク対応計画表」のような画一的なものを新たに作成するのが必ずしも組織にとって良い方法ではないかもしれず、例えば、労働安全衛生目標につなげてその達成計画を策定する場合もあれば(6.2.2)、設備や人といった資源の計画として策定する(7.1~7.3)こともあるでしょうし、運用管理の計画(8.1)として実際の現場の手順に落とし込む形で策定することもあるでしょう。さらに、それらの中で緊急事態として想定されるものについては、緊急事態への準備・対応(8.2)として計画することもあり得ます。このように、実際のシステムの運用に合わせて、適切な方法で計画をすることが重要なわけです。

 

6.1の細分項目(6.1.1〜6.1.4)の関係は込み入っていますので、以下にその関係と、その他の項目との関係を図示しましたので、参考にしてください。

イラスト

図:6.1の細分項目の相互関係とその他の項目との関係

計画での考慮事項

この項目の後半では計画の際に考慮すべきこととして、以下が要求されています。

  • 「取組みの実施を計画するとき」に、管理策の優先順位と労働安全衛生マネジメントシステムからのアウトプットを考慮に入れる。
  • 「取組みを計画するとき」に、模範事例、技術上の選択肢、並びに財務上、運用上及び事業上の要求事項を考慮する。

 

これらの違いは非常に分かりにくいと思いますが、簡単に言うと前者はシステムの計画のことを言っているのに対して、後者はリスク管理策(の程度)の計画のことを言っています。つまり、前者では、システムの計画に対しては労働安全衛生マネジメントシステムからのアウトプットである危険源の特定やリスク分析の結果、8.1.2にある管理策の優先順位といった「システムを動かすための主要な要素」というべきものを常に考慮に入れなければならないことが要求されています(組織の製品・サービスやプロセスに変更があった場合は特に)。これに対して後者では、リスク管理策の範囲や程度を決定する際に、模範事例、技術上の選択肢、財務上・運用上・事業上の要求事項といったことを考慮しなければならないことが要求されており、これは言い換えるとリスクは「ALARP(=as low as reasonably practicable)」(合理的に実行可能な限りできるだけ低くしなければならない)のレベルで管理すべきである、という考え方が反映されています(但し、規格作成の議論の過程で、一部の国からこのALARPという言葉を直接的に使用することに対する反対があったため、このような回りくどい表現になった、という背景があります)。

 

ちなみに、8.1.2にある「管理策の優先順位」とは以下のような優先順位のことです。

  1. 危険源の除去
  2. 危険性の低いプロセス・操作・材慮・設備への切り替え
  3. 工学的対策の実施・作業構成の見直し
  4. 管理的対策(教育訓練を含む)の実施
  5. 個人用保護具の使用

 

管理策はこの1→5の順番で検討を行い、できるだけ上位の、より根本的な解決策を行うことが重要です。

なお、ここで「考慮に入れる」と「考慮する」が使い分けられていることにも注意が必要です。この違いについては、「ISO9001誌上講義 コラム4:『考慮する』と『考慮に入れる』はどう違う?」で詳しく説明していますので、そちらを参照してください。

なお、先の5.4で見たように、危険源を除去し、労働安全衛生リスクを低減するための処置を実施することには非管理者が参加することが要求されていることにも注意が必要です。