【ISO45001】6.1.2.2 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスクの評価(1)

労働安全衛生に関連するリスクを明らかにしよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「組織は、労働安全衛生マネジメントシステムに関連するリスクを特定し、評価しなければならない」ということです。

「リスク」の2つのレベル?

この項目を理解する上でまず重要なことは、以下のような2つの種類のリスクが想定されていることを理解することです。

  • 労働安全衛生リスク
  • 労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク

ここで、「労働安全衛生リスク」は従来のOHSAS18001で言及していたリスクと同じと考えて良いでしょう。従って、ISO45001ではその他に「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク」という考え方が付け加えられていると考えられます。それではこれらはどのような違いがあるのでしょうか。

両者の違いを簡単に言うと、「労働安全衛生リスク」は運用レベルのリスクを指しているのに対し、「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク」はシステムレベルのリスクを指しているということです。つまり、「労働安全衛生リスク」は、この前の6.1.2.1で特定された危険源から生じるリスクであるのに対し、「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク」は主に4.1や4.2で特定した組織の課題や利害関係者のニーズ・期待から特定されるようなリスクと言えます。

2つのレベルのリスク

リスク

運用レベル 労働安全衛生リスク
システムレベル 労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク

 

このようなシステムレベルのリスクの考えが新たに追加された背景には、マネジメントシステム規格の共通構造を示した附属書SLに基づいてこの規格が作成されたことがあります。これが意図するところは、運用レベルの個々の詳細なリスクや機会を検討することはもちろん重要ですが、それに加えて、労働安全衛生マネジメントシステムそのものが有効でなくなるようなシステムのレベルでのリスクを考慮し、またそれを改善する機会を模索することが、マネジメントシステム自体が組織の戦略的方向性にとって意味のあるものであり続けるために重要だということです。

「労働安全衛生リスク」と「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク」には、例えば以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 「労働安全衛生リスク」の例:高所作業での転落のリスク、原子力発電所での放射線へのばく露のリスク
  • 「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスク」の例:スタッフの離職率の高さや教育レベルの低さによる安全手順不順守のリスク

「危険源」と「労働安全衛生リスク」の関係?

「労働安全衛生リスク」は、上記のように特定された「危険源」から導き出されるものです。その意味で、「危険源」と「労働安全衛生リスク」は明確に異なる意味を持った用語であることに注意が必要です。例えば、単にそこに電線があっても、それだけではリスクは生じません。その電線に電気が流れているという「状態」があったり、周囲に人がいて、その人がその電線に対して何らかの「行為」をしたりすることではじめて感電という「危害」が生じるリスクが生まれるのです(下図参照)。従って、一つの危険源であってもその状態やそれに及ぼされる行為が違えば異なる種類や程度のリスクが発生し得ますし、その発生し得る可能性を評価するのがリスクを評価する、ということになります。

イラスト

「危険源」と「労働安全衛生リスク」の関係

(次回に続く)