【ISO9001】8.3 製品及びサービスの設計・開発(2)

新しい製品・サービスの具体的な詳細をあらかじめ決めよう

(前回の続き)

「設計・開発」の計画をどのように立てるか?8.3.2

8.3.2では、設計・開発の計画(設計・開発の段階と管理の決定)に当たって必要な考慮事項が列挙されています。ここでも重要なことは、対象となる設計・開発に関連するリスクを考慮して設計・開発の計画をすることです。

このリスクは対象となる設計・開発活動の性質や期間、複雑さによって変わることがa)で示されています。例えば、組織が非常にシンプルな製品しか持っていない場合は、その製品に対しては非常にシンプルな設計・開発のプロセスしか必要でないかもしれません。その場合は設計・開発活動は短期間でシンプルなものとして計画されるでしょう。

また、設計・開発の計画は、設計・開発の段階に適切な設計のレビュー、検証、及び妥当性確認等の活動を含んだ全ての段階をカバーしたものでなければなりませんが(b, c)、このようなシンプルな設計・開発のプロセスの場合には、設計のレビュー、検証、妥当性確認の実施方法もそれに応じてよりシンプルなものになるでしょう。このように設計・開発プロセスにはリスクに応じた柔軟性があることに注意する必要があります。重要なことは組織の設計・開発の目的を達成するために必要なレベルの計画にすることであり、不必要な文書や記録を増やすような詳細なものを作ることのないように注意する必要があります。

また、e)で「設計・開発に必要な内部資源・外部資源」が挙げられているように、設計・開発は必ずしも組織内でのみ実施されるものではなく、外部資源を活用する場合もあります。また、かつては企業からの情報発信がほとんどであったのに対して、情報技術の進展やSNSの普及によって情報発信が双方向になったこともあり、消費者が商品開発に影響を与えることも多くなっています。外部資源には設計・開発の専門組織の場合もあれば、このような消費者・ユーザーを含む場合もあります。g)で「設計・開発プロセスへの顧客・ユーザーの参画の必要性」に言及しているのは、従来から見られる設計の妥当性確認への顧客の参画に加え、このような現代的な「消費者参加型商品開発」も含んだものと言えるでしょう。

また、i)の「顧客及び関連する利害関係者によって期待される設計・開発プロセスの管理レベル」は、顧客はもちろん、4.2で検討したその他の利害関係者(規制当局、業界団体、社会等)が、設計・開発に対して組織がどの程度の管理を行うことを期待しているか、ということが、組織の立案する設計計画のあり方に影響を与えうることを示唆しています。

どのような情報が「設計・開発」に必要か?8.3.3

8.3.3は設計・開発へのインプット、つまり設計・開発のプロセスで詳細な要求事項に変換される前の「対象に対する要求事項」を明確にすることを規定しており、その際に最低限考慮されるべき事項が明確にされています。この段階で要求事項に漏れや曖昧さがあると、その後の設計・開発、更には製品・サービスの提供後に大きな問題を生じさせかねず、場合によってはリコールや損害賠償などの莫大な損害につながりかねないため、これらの要求事項を明確にして設計・開発にインプットすることは、その後の設計・開発を成功させるために不可欠な、非常に重要なステップであることを認識する必要があります。

あらゆる製品・サービスは何らかの機能を何らかのレベルで満たすことを期待されていますので、機能や性能に対する要求事項が明らかにされるべきなのは当然です(a)。これらの情報は、特定の顧客に対する製品・サービスの場合は当該顧客から直接入手されるでしょうし、不特定の顧客に対する市場型の製品・サービスの場合は市場調査やマーケティングを通じて明らかになるでしょう。

b)の、「以前の類似の設計・開発活動から得られた情報」は、例えば組織内で今までの設計での失敗事例や成功事例から得られた情報がデータベースのような形で蓄積され、容易に検索・共有されるようになっていることが望ましく、7.1.6で説明した「組織の知識」とも関連します。法令・規制要求事項(c)は、製品・サービスが製造・提供されたり、輸送、使用、更には廃棄されたりする場所の法規制が該当する場合があり、それら国内外の公的機関から入手することになるでしょう。

d)の「組織が実施することを約束した標準・規範」の例としては、製品安全等の公的規格、業界の技術基準、学会が示す規範、更には社会的・文化的・宗教的なルールや慣習等も含まれます(特にこれは海外向けの製品・サービスの場合重要である)。

e)の「製品・サービスの特性に起因する失敗の起こりうる結果」は、ISO9001:2015が重視している「リスク」の考え方が表れたものであり、例えば本来意図したユーザー以外に利用された場合や意図した用途以外で使用された場合等、製品・サービスが実際に利用される可能性のある場面を想定してその結果を検討することが望まれます。

これらの要求事項は時とともに変化することにも注意が必要です。例えば、以前であればホテルに対してインターネットに接続できることが顧客からの高評価につながっていたものが、現在ではそれは当然の期待になり、むしろWiFi接続できなければ不満足につながる可能性があります。また、社会全般の環境や社会問題に対する意識の高まりにより、以前に比べて製品・サービスでそれらに対する積極的な対応が期待されています(低燃費車、省エネ家電、フェアトレード商品等)。

(次回に続く)

 

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◆講師:J-VAC 代表取締役副社長 森田裕之
◆総収録時間:4時間10分