【ISO9001】コラム 5 リスクに基づく有効性の内部監査をどのように行うか?

「タートル図」を使った内部監査の手法

従来の内部監査の問題点

内部監査は、品質マネジメントシステムに限らず、あらゆるマネジメントシステムにおいて、それを組織にとって有効な形で構築し、PDCAを回しながら運用していくために非常に重要な「C:チェック」を構成する要素です。しかしながら、実際の運用においては、残念ながら最も形骸化している活動の一つでもあります。その原因の一つに、内部監査が単に「適合性」をチェックするだけのものになってしまっていることがあります。例えば、規格の要求事項を単に裏返しただけのチェックリストに基づく条項だけの内部監査になってしまっていたり、手順通りに実施されているか、必要な記録が残されているかということばかりの確認になっていたりするような場合です。

このような形骸化した内部監査を避けるためには、組織の活動のアウトプットに着目し、それが望ましい結果になっているか、という「有効性」の観点を取り入れることが非常に重要です。内部監査は、効果的な方法で実施すれば組織の品質マネジメントシステムの有効性を改善し、それによって経営に役立てることができるものであることを改めて認識する必要があります。そのための有効と思われる方法一つが、「タートル図」を用いて組織の主要なプロセスの現状を把握・分析して内部監査する、というものです。

「タートル図」による内部監査のすすめ

タートル図とは、自動車業界で用いられている代表的なプロセス分析手法で、以下のように「インプット」「アウトプット」「設備」「人」「手順」「指標」といった要素からプロセスを分析する手法です。

イラスト

(タートル図)

上記のようなタートル分析によって、組織の主要なプロセスの現状を分析し、プロセスに関連するリスクを洗い出し、そのリスクの発生原因を抽出することができます。そしてそれらのリスクの発生原因がプロセスにおいて適切に管理されているかを監査することが非常に重要です。

また、タートル図を用いて内部監査を行なう際には、右下の「どの程度?」でプロセスのパフォーマンスを最初に確認し(C)、それに問題がある場合どの要素に問題があるかを考え、それらに対して適切な処置が行われ(A)、その結果が計画に反映され(P)、それに基づいて実施されているか(D)を見る、というロジック(いわゆる「CAPDo」)で見ていくことも有効でしょう。このようにタートル図による分析でプロセスを「見える化」し、プロセスの現状とそのリスクについて監査側と被監査側が共通した認識を持って監査に臨むことでより有効な監査が実施できると考えられます。

「タートル図」による内部監査をどのように行うか

タートル図によるリスク分析を行う際には、以下のような順序で考えると良いでしょう。そして、ここで明確にしたリスク要因を考慮して内部監査のチェックリストを作成することで、単なる適合性の監査に止まらない、リスクに基づく有効性の監査に一歩近づけることができると思われます。

① プロセスの範囲を明確にするために、「インプット」と「アウトプット」を明確にする。

  • インプット:このプロセスに投入されるもの(材料、情報等)は何か?
  • アウトプット:このプロセスから出てくるもの(製品、サービス、次工程への情報等)は何か?

② そのプロセスに関する、「何を用いて?」「誰が?」「どのように?」「どの程度?」をそれぞれ明確にする。

  • 「何を用いて?」(設備・機器):このプロセスの運用に当たって、どのような設備や機器が使われるか?
  • 「誰が?」(人):このプロセスの運用に当たって、どのような人が関わるか?
  • 「どのように?」(手順・基準):このプロセスの運用に当たって、どのような手順で行われるか?
  • 「どの程度?」(指標):このプロセスの有効性をどのような基準で判断するか?

③ 明確にしたそれぞれの要素に関連して、どのようなリスク要因がありうるかを考える。

  • 「設備・機器」に関連するリスク要因の例:必要な設備や機器がない、設備や機器が適切な状態に維持されていない
  • 「人」に関連するリスクの例:必要な力量や知識を持った人がいない、必要な力量が明確になっていない、必要な資格や免許がない
  • 「手順・基準」関連するリスクの例:手順が明確でない・適切でない、合否の判定基準がない
  • 「指標」に関連するリスクの例:プロセスの判断基準が明確でない・適切でない、データの分析・評価がされていない、判断基準を満たしていないときの処置がなされていない

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