【ISO9001】8.3 製品及びサービスの設計・開発(1)

新しい製品・サービスの具体的な詳細をあらかじめ決めよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「新しい製品・サービスを具体的にどのようなものにすべきか、その詳細を事前に検討し、決定しなさいということです。そして、この項目は8.3.1~8.3.6に分かれており、それぞれ以下のようなことが規定されています。

  • 8.3.1:どのような場合に「設計・開発」のプロセスが必要か?
  • 8.3.2:「設計・開発」の計画をどのように立てるか?
  • 8.3.3:どのような情報が「設計・開発」に必要か?
  • 8.3.4:「設計・開発」のプロセスをどのように管理するか?
  • 8.3.5:「設計・開発」の結果はどのようなものでなければならないか?
  • 8.3.6:「設計・開発」の変更をどのように管理するか?

「設計・開発」とは?

まず、ISO9001:2015で言う「設計・開発(Design and Development)」がどのような意味なのかを見てみましょう。ISO9000:2015では以下のように定義されています。

「対象に対する要求事項を、その対象に対するより詳細な要求事項に変換する一連のプロセス」(ISO9000:2015, 3.4.8)

新たな製品やサービスを提供しようとするとき、何よりもまずはその製品・サービスをどのようなものにするのかを決めなければなりません。そのときの検討の元になるのは、ターゲットとする顧客のニーズ・期待(要求事項)や製品・サービスに関わる法規制といったものがあるでしょう。それらの情報に基づいて、それらを満たすような製品・サービスは具体的にどのようなものにすべきかの詳細を決める必要があるのです。「設計・開発」は、このような製品・サービスの具体的な詳細を決定するプロセス、ということになります。

また、この定義からも分かるように、ISO9000:2015では意図的に「設計・開発」を「設計」と「開発」に分けて定義していません。国によって、あるいは業種によっては、同種の活動が「設計」と呼ばれたり「開発」と呼ばれたりすることがあり、日本においては「開発」と言うと「研究開発(R&D)」がイメージされることが多いですが、「研究開発」は直接的には「製品の」設計・開発に含まれず、場合によっては品質マネジメントシステムから除外されることがあります。

どのような場合に「設計・開発」のプロセスを確立しなければならないか?(8.3.1

8.3.1は設計・開発に関する概説的な要求事項です。ここでは、設計・開発プロセスを確立しなければならない目的が、「以降の製品及びサービスの提供を確実にするため」とされています。つまり、設計・開発プロセスがなければ「以降の製品及びサービスの提供を確実にできない」場合、設計・開発プロセスを確立しなければならないということです。

では、「以降の製品及びサービスの提供を確実にできない」場合とはどのような場合でしょうか。端的に言えば、これは製品・サービスを提供するのに十分な程度詳細な要求事項が明確になっていない場合、と言えます。例えば、顧客からの要求内容(ニーズ・期待)に曖昧な部分があって、そのままでは製品・サービスの提供に進めない場合、その部分について誰かが明確にしなければなりません。この部分を組織が顧客に確認することで、顧客が明確にしていくことができるのであれば、それは上述の8.2の中で実施することになりますが、それを顧客が明確にしない(できない)のであれば、設計・開発の責任は組織にあり、組織はそのためのプロセスを確立する必要がある、ということになります。言い換えると、組織に設計・開発が該当しない、というのであれば、誰が「製品・サービスの提供に必要な程度詳細に要求事項を明確化しているのか」を問う必要があり、それが組織以外に誰もいないのであれば、設計・開発の責任は当該組織にある、と言わなければなりません。

本当に「設計・開発」は適用できないか?

「設計・開発」に関しては、その活動が自分たちの組織にはない、として適用しないと決定する場合がありますが、この決定においては、本当に自分たちの組織には「設計・開発」に当たる活動がないのかを慎重に検討する必要があります。

これは、従来「設計・開発」という言葉が必ずしも適切に理解されておらず、特にサービス業においては、自分たちは製造業ではなく、「製品」の設計を実施していないために適用除外とする、と判断している例が多くあったことに関係します。製造業では、提供しようとする製品の仕様(材料、寸法、重量、強度といった、その製品が満たすべき特性)が明確になっていなければ実際にそれを製造することができないのに対し、サービス業では、「提供しようとするサービスがどのようなものであるべきか」が十分明確になっていなくてもとりあえず提供することができてしまうことにも原因があるでしょう。

しかしそのような場合、実際にそのサービスの提供を受けた顧客が自分の要求に合致していなければ顧客の不満足を生み、苦情が表明されたり、二度とそのサービスを利用しなかったり、ということが起こりうるでしょう。これは、本来行うべき十分な設計・開発がそのサービスに対して実施されなかった結果生じた事態ということができ、ISO9001が目的とする「一貫して適合した製品・サービスの提供」と「顧客満足の向上」を満たすことになりません。従って、サービス業であっても、そのサービスに求められる詳細な要求事項(仕様)を必要な程度明確にすることが求められ、その意味でサービス業においても設計・開発は存在することになります(むしろ、顧客の暗黙の要求が占める部分が多いサービス業にあっては、製造業に勝るとも劣らず設計・開発が重要だとも言えます)。

「設計・開発」に関するその他の論点

「設計・開発」に関するその他の論点として、これを「プロセスの設計」に適用すべきか、という問題があります。忘れてはならないのは、8.3はあくまで「製品及びサービスの」設計・開発を規定したものですので、製品・サービスを提供するためのプロセスの設計(いわゆる「工程設計」)に適用することを要求はしていません。しかし、工程設計はその後の製品・サービスを提供する上で大変重要なプロセスである場合があり、組織はそれに対して8.3の要求事項を適用することもできます(むしろ、工程設計に8.3の設計・開発の要求事項を適用するのは組織にとってリスク管理上、大変有益である場合も多いでしょう)。なお、サービス業においては、サービス自体とそれを提供するためのプロセスは非常に密接に関係しているため、実際にはサービスの設計・開発はサービス提供プロセスの設計・開発と区別することができない場合もあります。

また、組織がもともとの製品・サービスの設計に対する責任を有しているわけではないが、その設計を変更する責任を有している場合もあるかもしれません。また、基本的な製品・サービスの設計は以前既に実施され、現実的にはそれに必要な変更(修正)を加えるのみである場合もあるかもしれません。このような場合には、後述する8.3.6「設計・開発の変更」を主としたプロセスということになるでしょう。

(次回に続く)

 

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◆講師:J-VAC 代表取締役副社長 森田裕之
◆総収録時間:4時間10分