【ISO9001】9.1.3 分析及び評価

品質マネジメントシステムの有効性の改善のためにデータを分析し、評価につなげよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「品質マネジメントシステムの有効性を改善するために、監視・測定で得られたデータを分析し、それを評価のために活用しなさいということです。

データを分析し、使用する

この項目は、9.1.1で要求された監視・測定を実施した結果得られたデータや情報を分析すること、そしてそれを以下のようなことを評価するために使用することを要求しています。

  • 製品・サービスは適合しているか?

これには、製造業での工程内検査や最終検査、建設業での中間検査や竣工検査といった製品に対する検査結果のデータや返品状況、サービス業でのサービスレベル監視結果の情報、解約状況等が利用されるでしょう(6, 9.1.2参照)。

  • どの程度顧客満足が得られているか?

これには、顧客アンケート調査の結果や顧客の苦情、賛辞、ディーラー報告やリピート注文の状況等のデータや情報が利用されるでしょう(1.2参照)。

  • 品質マネジメントシステムはどのようなパフォーマンスを示しており、どの程度有効か?

これには、内部監査結果や第二者・第三者の監査結果の情報、目標の達成状況の監視結果の情報等が利用されるでしょう。

  • 計画が効果的に実施されているか?

これには、プロセスの測定・監視結果のデータ、プロジェクトの監視結果の情報、目標達成計画の進捗監視結果の情報等が利用されるでしょう。

  • リスク・機会への取組みがどの程度有効か?

これには、リスク・機会への対応のための事業計画やプロジェクト計画、目標達成計画の実施状況や進捗状況の監視結果の情報が利用されるでしょう。

  • 外部提供者はどのようなパフォーマンスを示しているか?

これには、外部提供者の評価や再評価、パフォーマンス監視結果の情報等が利用されるでしょう(4.1参照)。

  • 品質マネジメントシステムに対してどのような改善の必要があるか?

様々な監視・測定の結果から、要員・設備等の資源の変更や新規導入、プロセスの変更や新設、目標の変更といった改善が必要と判断されることがあるでしょう。

上記のように、それぞれの事項を評価するためには様々なデータの分析結果が必要でしょうし、またあるデータの分析結果は必ずしも一つの事項を評価するためにのみ利用されるわけでもありません。様々なデータの分析結果から総合的、多面的に評価を行うことが重要でしょう。そしてこの分析・評価の結果は、9.3のマネジメントレビューへのインプットとして使用されなければなりません。

「分析」と「評価」

データの分析は、「分析のための分析」であってはならず、あくまで品質マネジメントシステムのパフォーマンスの改善に寄与するための「評価」につなげられなければなりません。「分析する」(analyze)と「評価する」(evaluate)という用語はISO9000で定義されていませんが、辞書的な意味を調べると以下のような意味であることが分かります。

「分析する」:「あることを理解又は説明するために、特に部分に分けることによって、その性質や構造を調べること」

「評価する」:「注意深く考えた上で、あることの量、価値、質などに関する意見を形成すること」(いずれも”Oxford Advanced Learner’s Dictionary”より)

上記の定義からも分かるように、「分析する」とは「調べること」であり、調べる目的は「評価する」、つまり何らかの「意見を形成する」ことであると言えます。つまり、いくらデータを分析しても、それによって「結局どのようなことが言えるのか」という意見が言えないのであれば、それは「評価」を行っていないということになります。

なお、2008年版では、8.1で統計的手法を監視、測定、分析、改善のプロセスに含めることが要求されていましたが、ISO9001:2015では要求事項ではなく注記に含まれています。これも、「規範的な要求」をなるべく避けるという2015年版の考え方が反映されたものと言えます。当然ながら統計的手法を使うことが目的ではなく、統計的手法によってより効果的な分析ができるようにすることが目的であり、組織が提供する製品・サービスや顧客の要求等によってどのような手法を使うのか、どの程度使うのか、といったことは大きく異なります。自動車業界や航空宇宙業界等、それぞれの業界で一般的に使用される手法や特有のツールがある場合は当然のことながらそれらを適切に利用することが重要です。

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