【ISO9001】8.6 製品及びサービスのリリース

製品・サービスを引き渡す前に適合を確認しよう

この項目の要求事項を一言で言うと、製品・サービスは、それが要求事項を満たしていることを確認してから顧客にリリースしなさいということです。ISO9001規格が「一貫して適合した製品・サービスを提供する」ことを目的としていることを考えれば、製品・サービスが適合しているか(要求事項を満たしているか)を検証しなければならないことは当然と言えますが、それだからこそ非常に重要な要求事項であるとも言えます。

製品・サービスの適合性をどのように検証するか?

先の8.5.1「製造及びサービス提供の管理」で、「製品及びサービスの合否判定基準を満たしていることを検証するために、適切な段階で監視及び測定活動を実施する」ことが「管理された状態」の一つであることが規定されていましたが、この項目はそれをより詳細に規定した項目ということができます。

この項目は、製品・サービスが実際に要求事項を満たしていることを、計画した通りに検証し、それによって適合が確認されなければ顧客にリリースしてはならないことを要求しています。そして、これは製品・サービスを顧客に引き渡す前にそれらが最終的に問題ないことを確認するという、製品・サービスの品質にとって非常に重要な要素ですので、「合否判定基準に対する適合の証拠」と「リリースを正式に許可した人に対するトレーサビリティ」を文書化した情報(記録)として保持することが要求されています。なお、「リリースを正式に許可した人に対するトレーサビリティ」とは、リリースを正式に許可した人が誰なのかが追跡可能(トレーサブル)である、ということです。従って、必ずしもリリースを正式に許可した人の名前が記録に記載されていなくても良いですが、記録から誰が許可したのかが特定できるようになっている必要があります。

この「製品・サービスが要求事項を満たしていることの確認」は、製造業においては最終検査や出荷検査といった検証を行なった上で出荷する、ということを意味するでしょうし、清掃業や修理業といったサービス業においては、顧客に引き渡す前にサービスの出来栄えを確認した上で引き渡す、ということが該当するでしょう。但し、多くのサービス業では、例えば教育サービスや医療サービスのようにサービスの提供と引渡しが同時に行われる場合もありますので、その際には注意が必要です。例えば教育サービスでは、教育の提供の都度いちいち内容を検証することは現実的ではありません(例えば、講義を行う際に、話をする都度その話の内容が適切かどうかを検証し、記録を残しながら話す、というのは現実的ではありません)ので、そのような場合には、教育内容の適切性を予め確認し、それを承認する、というような形でこの項目に対する対応が行われている、と考えることができるでしょう。

製品・サービスの検証前に引き渡すことは許されるか?

但し、実際の状況ではこのような検証を完了する前に製品・サービスをリリースせざるを得ない場合もあるでしょう。例えば、納期を優先しなければならないために、製品に対する完全な検証が行われる前に、完全な検証が完了していないことを了解した上で、条件付きで引き渡すというような場合です(そのような場合でも、完全な検証が行われる前に条件付きで引き渡した時に発生しうるリスクが許容範囲内であると判断できることは必要と思われますが)。

この項目ではそのような例外的な場合も認めていますが、そのような場合は、権限を持つ人が承認し、かつ該当する場合は顧客が承認しなければならないと規定しています。このような例外的な処置が正式な承認も経ないで日常的に行われることのリスクの大きさを考えれば、これは当然と言えるでしょう。上記で「リリースを正式に許可した人に対するトレーサビリティ」の記録が要求されている、と書きましたが、このような例外的な処置の場合も、当然ながらそれを許可した人を特定できる記録が必要なことは言うまでもありません。

 

 

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