【ISO9001】8.5 製造及びサービス提供(2)
製造・サービス提供に関わるプロセスを適切に管理して実施しよう
(前回の続き)
顧客・外部提供者の所有物を適切に取り扱う(8.5.3)
ここで注意すべきなのは、顧客や外部提供者から提供されたものが使用に適さないことが分かった場合(紛失したり損傷したりすることを含む)の扱いでしょう。そのようなことがあった場合、顧客や外部提供者に報告するだけでなく、発生したことを文書化した情報(記録)として保持することが要求されています。記録まで要求されているのは、口頭だけで確認した場合、後々問題になった時にその損傷や紛失が自分たちのせいではないことを実証することができなくなってしまうため、言わば自分たちを守るためでもあります。
そうは言ってもそれが自分たちの製品・サービスの品質にとって非常に重要なものだったり、非常に高価なものだったりした場合は、単に「気をつけて扱う」と言っているだけではダメでしょうから、何に対してどの程度の管理をする必要があるかを決める際には、それが紛失したり損傷したりした際に考えられる「リスク」を考慮することが重要です.
8.5.3では、顧客や外部提供者の所有物を使用する場合、それを適切に取り扱うことを要求しています。例えば、製造業であれば顧客から提供される材料やツール(金型、治具等)などを使用して製造することがあるでしょうし、サービス業で顧客の所有物を使用してサービスを提供することもあるでしょう(例 自動車整備業の場合の、顧客から整備を依頼された自動車)。そのような場合、それらは自分たちの所有物ではないため、当然ながらそれらが顧客の所有物であることが分かるようにしておかなければなりませんし(識別)、それらを注意して扱う必要があります。しかしこれらは、言い換えれば「人の物は大切に扱いましょう」という、ごく当たり前のことを言っているに過ぎませんので、それほど問題にはならないでしょう。
なおここでは、顧客の所有物だけでなく、外部提供者の所有物のことにも言及しています。顧客や外部提供者の所有物の例としては以下のようなものがあるでしょう。
- 製造業における、顧客や外部提供者から提供される設備機器(レンタル会社からのレンタル品等を含む)、工具、測定装置、材料、構成部品、包装・梱包資材、保守・保全用部材
- 修理業における修理対象の顧客の設備機器
- 建設業や据付業における顧客の建物や設備
- 運送業における運搬物
- 歯科医院における修理・調整用技工物
- 設計図面、仕様書、教育・訓練資料等の知的所有物や個人情報
なお、顧客の所有物については、その取扱いや管理について顧客とコミュニケーションをとることが、8.2.1「顧客とのコミュニケーション」で要求されていることにも注意する必要があります。
適切に保存する(8.5.4)
8.5.4では、製造・サービス提供を行う間、プロセスのアウトプットが適合した状態を維持できるように保存しなければならないことが要求されています。この保存には、識別、取扱い、汚染防止、包装、保管、伝送・輸送、保護を含むことできることが注記に規定されていますが、これはあくまで例示であり、必ず全てを含まなければならない訳ではなく、製品・サービスの適合性を維持する上で該当するものを適用すれば良いでしょう。
保存の例としては、異品を区別するための明確な製品の識別(8.5.2に関連)、製品の移動や輸送時の、適切な設備機器(フォークリフト、トラック、コンベア、パレット等)や容器(コンテナ、パーツ箱等)を使用した損傷の防止、異物混入の防止、適切な梱包・包装といったことが含まれ、これは対象となる製品・サービスの性質によって大きく異なります。特に食品の加工や輸送においては、アレルギー物質の混入防止や製品の適正温度下での保管が重要でしょう。
引渡し後の活動を実施する(8.5.5)
8.5.5は、製品・サービスに関連する引渡し後の活動に対する要求事項を満たすことを要求しています。そして、どのような「引渡し後の活動」が必要かを決定する際には以下のようなことを考慮すべきと言っています。
- 法令・規制要求事項
- 製品・サービスに関して起こりうる、望ましくない結果
- 製品・サービスの性質、用途、意図した耐用期間
- 顧客要求事項
- 顧客からのフィードバック
引渡し後の活動に含まれるものの例として、以下のようなものが挙げられています。
- 契約上の義務的事項(無償修理保証、保守サービス等)
- 補助的サービス(リサイクル、最終廃棄等)
これは、これらのいわゆる「アフターサービス」に対する顧客や社会全般の期待が以前よりも高まっているという時代の変化を反映したものと言えるでしょう。
変更を管理する(8.5.6)
6.3で、ISO9001:2015が「変更管理」を重視していると述べましたが、この8.5.6はその一つの例と言えます。ここでの対象は「製造・サービス提供」に関する変更であり、典型的な例としては、製造現場でのいわゆる「4M変更」(材料、機械、人、方法の変更)があります。
問題は、通常の状態でプロセスが行われているときではなく、そこに何らかの変更が生じたときに発生することが多いでしょう。特に現場では日々発生する様々な状況に対処するため、止むを得ずプロセスの要素を変更して実施することもあるでしょう。そのような例外的な状況を考慮しないプロセスは硬直的で実際的ではなく、かえって非公式な作業や都合の良い解釈に基づく作業を助長するとともに、そのような作業を見えにくくしてしまう危険性があります。言わば、手順の順守を強制する上からの指示と、それを許さない現実の状況との間で板挟みになった結果発生する「ダブルスタンダード」です。このようなことは、そのまま放置すればいずれは必ず大きな問題となって現れてきます。そのようなことのないように、この項目では現場レベルの変更が発生する可能性をあらかじめ想定し、そのような場合でも要求事項の順守に必要な最低限のことが維持できるようにするために必要な事項を規定していると言えます。
このように非常に重要な要素ですので、組織は、変更のレビューの結果、変更を正式に許可した人、レビューによって必要とされた処置を文書化した情報(記録)として保持しなければならないことが要求されています。