【ISO45001】7.2 力量(1)
必要な力量をもった人が業務を行えるようにしよう
この項目の要求事項を一言で言うと、「必要な力量を持った人が(労働安全衛生パフォーマンスに影響を与える)業務に割り当てられるようにしなさい」ということです。そしてそのために必要な事項がa)〜d)に掲げられています。
「力量」とは何か?
まず「力量」とは何を意味するのかを見ておきましょう。「力量」は規格では以下のように定義されています。
「意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力」(ISO45001:2018, 3.23)
ここから分かるように、力量とは「適用する能力」、つまり「できること」という意味を持っています。従って、単に知識として頭で「知っている」だけでは力量を持っていることにはなりません。
必要な力量をどのように決定するか?
「力量」とは何かを理解した上で、この項目の内容を見ていきましょう。冒頭に書いたように、この項目では「必要な力量を持った人が業務に割り当てられるようにする」ことが意図されているのですが、そのためにはそもそも「必要な力量」とは何か、を明らかにしなければなりません。従って、まずa)では、「労働安全衛生パフォーマンスに影響を与えるか、又は与える可能性のある『働く人』」に対して、「必要な力量を明確にする」ことが求められています。ここで考えなければならないのは、「労働安全衛生パフォーマンスに影響を与える」とは何か、そして「働く人」とは誰か、ということでしょう。
「労働安全衛生パフォーマンス」は、規格では以下のように定義されています。
「働く人の負傷及び疾病の防止の有効性、並びに安全で健康的な職場の提供に関わるパフォーマンス」(ISO45001:2018, 3.28)
従って、「労働安全衛生パフォーマンスに影響を与える、又は与え得る」人とは、「働く人の負傷及び疾病の防止の有効性」と「安全で健康的な職場の提供」の結果に影響を与える(可能性のある)人ということになり、例えば以下のような人が含まれるでしょう。
- 危険源の特定やリスク及び機会の評価を行う人
- 労働安全衛生リスクに関わる作業を行う人
- 該当する法的及びその他の要求事項の特定や順守評価を行う人
- 労働安全衛生目標の達成に関わる作業を行う人
- 緊急事態に準備・対応する人
- 内部監査を実施する人
- 発生事象の調査や不適合に対する処置を行う人
では「働く人」とは誰でしょうか。規格では、「働く人」は以下のように定義されています。
「組織の管理下で労働する又は労働に関わる活動を行う者」(ISO45001:2018, 3.3)
そして、この「働く人」には、その注記にもあるように経営者や管理職も含まれ(注記2)、また、「労働又は労働に関わる活動」は必ずしも正社員だけでなくパートタイムや季節労働者によって行われる場合もあり(注記1)、「組織の管理下」で行われる活動は必ずしも正社員だけでなく、外部提供者や請負者、派遣労働者などによって行われる場合もある(注記3)ということに注意が必要です。
重要なことは、必要な力量を持っていることが要求される対象の範囲は、正社員かそうではないか、といった契約形態によって決まるのではなく、その活動が組織の労働安全衛生パフォーマンスに影響する(可能性がある)のであれば、それを行う人が正社員であるかどうかに関わらず、必要な力量が明確になっていなければならない、ということです(請負者に関しては、法律上の管理責任は請負会社にあるため、その活動を行っている請負会社の人々は直接的に「組織の管理下」にあるとは言えないかもしれませんが、だからと言ってその活動の結果に組織が責任を有しないということではありません。組織としては必要な力量を持った人によってその活動が行われるようにするために、必要に応じて要求すべき力量を明らかにして請負先組織に示すことが必要でしょう)。
ここでは機械設備の操作や危険物の取扱いといった技術的な力量が含まれることは当然のことながら、それ以外にも、場合によっては語学力や読み書きの能力といったものも含まれる可能性があります。人手不足に伴って外国人労働者の増加が今後ますます進んでいくことが予想される状況にあって、これらの力量を考慮することの重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
(次回に続く)