【ISO45001】 5.4 働く人の協議及び参加

労働安全衛生マネジメントシステムには働く人の関わりが不可欠!

この項目の要求事項を一言で言うと、「労働安全衛生マネジメントシステムには働く人の協議・参加が必要である」ということです。労働安全衛生マネジメントシステムを効果的に運用するためには、5.1にあるようにトップマネジメントのリーダーシップは重要ですが、それだけでは十分ではありません。実際に「働く人」自身が関わらなければ、真に働く人の安全衛生を守ることはできないため、「働く人」自身が労働安全衛生マネジメントシステムに積極的に関わることが不可欠です。

「協議」「参加」とは?

まず「働く人」について復習しておきましょう。「働く人」とは、4.2ですでに見たように、以下のように定義されています。

「組織の管理下で労働する又は労働に関わる活動を行う者」(ISO45001:2018, 3.3)

そして、これにはいわゆる「労働者」「作業者」だけでなく、「トップマネジメント」や「管理職」も含まれます(ISO45001:2018, 3.3 注記2)。

そしてまずこの項目では、労働安全衛生マネジメントシステムの「開発、計画、実施、パフォーマンス評価及び改善のための処置」といった全ての場面において、「適用可能な全ての階層及び部門」の働く人・働く人の代表との「協議及び参加」のためのプロセスの確立・実施・維持が求められています。

それでは、「協議」と「参加」とはどのような意味でしょうか。これらの言葉はISO45001:2018で以下のように定義されています。

「協議(consultation)」:「意思決定をする前に意見を求めること」(ISO45001, 3.5)
「参加(participation)」:「意思決定への関与」(ISO45001, 3.4)

「協議」については、さらに附属書A.5.4で「対話とやりとりを含む双方向のコミュニケーション」と説明されており、働く人(やその代表)に必要な情報をタイムリーに提供したり、組織が意思決定する前に考慮するためにフィードバックをしたりすることを含みます。また「参加」については、働く人が労働安全衛生パフォーマンス対策や変更案に関する意思決定プロセスに寄与することができるようになることが意図されています。このように、「協議」はあくまで意思決定のために意見を聞くことであるのに対して、「参加」はその意思決定プロセス自体に関わることを意味している、と言えるでしょう。

 「協議」と「参加」のために必要な事項

a)からc)では、協議や参加を行うために必要なことが規定されています。a)では協議・参加のための「仕組み、時間、教育訓練、資源」を提供することが要求されています。ここで「仕組み」とは原文では”mechanism”となっており、注記にあるように、働く人の代表制を持つことは、この「仕組み」の一つの例です。

b)では、労働安全衛生マネジメントシステムに関して、明確で理解しやすい関連情報にタイムリーにアクセスできるようにすることが求められています。これは実際にはコミュニケーションの仕組みを通じて行われると思われますので、7.4にあるコミュニケーションに関する要求事項への対応の中で検討すると良いでしょう。

c)では参加の障害や障壁を特定して取り除き、取り除けない場合は最小化することが要求されています。障害や障壁の例としては、「働く人の意見又は提案への対応の不備、言語又は識字能力の障壁、報復又は報復の脅し、及び働く人の参加の妨げ又は不利になるような施策又は慣行」が含まれます(注記2)。働く人のダイバーシティ(多様化)が進む中、今後ますます外国人や障がい者の雇用が増えることが考えられ、その際には特に言語や識字能力に関する障壁について配慮することの重要性が高まるでしょう。また「報復」については5.1のk)でも規定されていましたが、例としては解雇の脅迫や懲戒処分等があります。これは組織慣行や文化に関係する場合も多く、そのような目に見えない障害・障壁に関しては特に注意が必要でしょう。また、注記4でも言及されているように、働く人に教育訓練を無償で提供することや就労時間内で教育訓練を提供することも、働く人の参加への障害を取り除く手段の一つと考えられます。

 「協議」と「参加」が必要な事項

続くd)とe)では、それぞれ非管理職と「協議」を行うべき事項(9項目)、非管理職が「参加」すべき事項(7項目)が具体的に列挙されています。従って、d) に列挙された事項を行う際には働く人(やその代表)に対して意見を求め、その上で意思決定を行うことが必要であり、e)に列挙された事項について意思決定する際には、働く人(やその代表)が参加する必要があります。これらをまとめると以下のようになります。

 

箇条 「協議」が必要な事項(d) 「参加」が必要な事項(e)
4 利害関係者のニーズ・期待の決定(4.2)
5 労働安全衛生方針の確立(5.2)

役割、責任・権限の割り当て(5.3)

非管理職の協議・参加の仕組みの決定(5.4)
6 法的・その他の要求事項を満たす方法の決定(6.1.3)

労働安全衛生目標の確立、達成の計画(6.2)

危険源の特定、リスク・機会の評価(6.1.1, 6.1.2)

危険源の除去と労働安全衛生リスクの低減のための処置の実施(6.1.4)

7 力量の要求事項、教育訓練ニーズ、教育訓練の決定、教育訓練の評価(7.2)

コミュニケーションの必要がある情報・方法の決定(7.4)

8 外部委託、調達、請負者に適用する管理の決定(8.1.4) 管理方法、効果的な実施・活用の決定(8.1, 8.1.3, 8.2)
9 モニタリング、測定、評価の対象の決定(9.1)

監査プログラムの計画、確立、実施、維持(9.2.2)

10 継続的改善の確実化(10.3) インシデント・不適合の調査、是正処置の決定(10.2)

(※カッコ内は、関連する箇条番号を示す)