【ISO14001】7.3 認識
組織の人に重要なことをきちんと認識させよう
この項目の要求事項を一言で言うと、「組織の人々に必要なことを認識させなさい」ということです。そして、認識させなければならない事項がa)〜d)に掲げられています。
「認識」とは何か?
それでは、ここでいう「認識(awareness)」とは何を意味するのでしょうか。規格にはこの言葉の定義はありませんので、辞書を引くと以下のように定義されています。
「あることを知っていること、あることが存在していることや重要であることを知っていること、あることに関心を持っていること」(OALD)
上記の辞書の定義から、「認識」とは「知っていること」であることが分かります。7.2のところで、「力量」とは「できること」である、と書きましたが、それとの対比として理解しておくと良いでしょう。
当然「知っていること」と「それに従って行動すること」とは同じではありませんが、ここで要求されているのはあくまで「認識」=「知っていること」です。つまり、「知らないことには始まらない」のであって、最低限の要求としてこれらを「認識=知っていること」を要求していると理解することができます。ただ、だからといって「それに従って行動すること」を無視しているわけではありません。「認識」とは、上記の辞書の定義にもあるように、単に「知っていること」以上に、「それが重要であることを知っていること」も含まれていると考えれば、本当に深く「認識」していれば、それは行動に表れると考えられます。従って、「それに従って行動されていない」場合には、「認識が十分でない」とも考えられ、より深く認識してもらえるような改善が望まれるでしょう。
「誰に」認識させるのか?
「認識」の意味を確認したところで、それでは誰に対して、何を認識させたら良いのでしょうか。ここでも前の7.2(力量)同様、「組織の管理下で働く人々」に対して、ということが言われています。つまり、これには「組織の従業員」はもちろん、組織の従業員と同様の業務を行う派遣社員やパート社員、更に場合によっては請負者といった人も含まれ、正社員かそうでないか、という契約形態によってこの認識の対象が決まるのではない、ということに注意することが重要です。
ただ、先の7.2では、「環境パフォーマンスに影響を与える業務、及び順守義務を満たす組織の能力に影響を与える業務を組織の管理下で行う人」という限定がありましたが、ここではそのような限定はされていません。従って「認識」させる対象の方が、「力量」を求める対象よりも広い、ということになります。ここでは、環境マネジメントシステムの適用範囲内にいる全ての人と実質的には同じと考えて良いでしょう。
「何を」認識させるのか?
そして、「何を」認識させなければならないのか、ということについては、a)~d)で具体的に列挙されています。a)では、環境方針を認識させることが要求されています。これは、環境方針を暗記していなければならない、という意味ではなく、方針の内容や重要性、意義といったことを「知っている」ようにすることです。
b)では「自分の業務に関係する著しい環境側面及びそれに伴う顕在する又は潜在的な環境影響」を認識させることが要求されています。言い換えれば、自分の業務が環境上どのような影響やリスクを持っているのかを理解させる、ということになります。
c)は「環境マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献」、d)は「環境マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味」を認識させることを要求しています。これらは、言い換えれば自分の仕事や行動・活動が環境マネジメントシステムの有効性に対してプラス・マイナスの両面でどのような意味や影響を持っているかということを理解する、ということと言えるでしょう。組織の管理下で働く人々は、それらを認識した上で、自らの仕事を注意して行う必要があり、またより積極的に環境パフォーマンスを高めるような行動をとることが期待されています。
「どのように」認識させるのか?
それではこれらのことを「どのように」認識させたら良いのでしょうか。これについては、組織の規模や複雑さによって当然異なりますので規格は特に規定していません。これは次のコミュニケーションとも関連しますが(7.4)、同じ事柄を認識させる場合でも、対象となる人数が少ない小企業では会議や朝礼等の直接的な方法で十分かもしれませんが、対象となる人数が多い大企業では、直接的な方法では限界があるため、その他にホームページやイントラネット、電子メール、社内報、掲示といった様々な方法が必要となるでしょう。従って、そのようなそれぞれの組織の状況を考慮して適切な方法を組織が決め、それは7.4で要求されているコミュニケーションのプロセスに含まれることになるでしょう。
なお、この項目では特に「文書化した情報の保持」(記録)は要求されていません。ここで重要なのは「記録」を残すことではなく、必要なことが、必要な人に実際に認識されている、ということであり、また認識されるようにするための仕組みがある、ということです。従って、審査においても、「記録」の確認よりも、実際に必要な人が必要なことを認識しているかを「インタビュー」などによって確認することがより重視されるでしょう。