【ISO14001】7.2 力量(1)
必要な力量をもった人が業務を行えるようにしよう
この項目の要求事項を一言で言うと、「必要な力量を持った人が(環境パフォーマンスと順守義務を満たす能力に影響を与える)業務に割り当てられるようにしなさい」ということです。そしてそのために必要な事項がa)〜d)に掲げられています。
「力量」とは何か?
まず「力量」とは何を意味するのかを見ておきましょう。「力量」は規格では以下のように定義されています。
「意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力」(ISO14001:2015, 3.3.1)
ここから分かるように、力量とは「適用する能力」、つまり「できること」という意味を持っています。従って、単に知識として頭で「知っている」だけでは力量を持っていることにはなりません。
必要な力量を明確にすべき業務とは?
「力量」とは何かを理解した上で、この項目の内容を見ていきましょう。冒頭に書いたように、この項目では「必要な力量を持った人が業務に割り当てられるようにする」ことが意図されているのですが、そのためにはそもそも「必要な力量」とは何か、を明らかにしなければなりません。従って、まずa)では、「環境パフォーマンスに影響を与える業務、及び順守義務を満たす組織の能力に影響を与える業務を組織の管理下で行う人」に対して、「必要な力量を明確にする」ことが求められています。ここで考えなければならないのは、「環境パフォーマンスや順守義務を満たす能力に影響を与える」とは何か、そして「組織の管理下で行う人」とは誰か、ということでしょう。
「環境パフォーマンス」は、規格では以下のように定義されています。
「環境側面のマネジメントに関連するパフォーマンス」(ISO14001:2015, 3.4.11)
具体的に「環境パフォーマンスに影響し、かつ順守義務を満たす組織の能力に影響する業務」がどのようなものかは組織の環境側面が何であるかによって異なりますが、この項目にある力量の要求事項が適用される対象になる人々として、附属書A.7.2では以下のような例示がされています。
- 著しい環境影響の原因となる可能性を持つ作業を行う人
- 以下を行う人を含む、環境マネジメントシステムに責任を割り当てられた人
-
- 環境影響又は順守義務を決定し、評価する
- 環境目標の達成に寄与する
- 緊急事態に対応する
- 内部監査を実施する
- 順守評価を実施する
「組織の管理下で業務を行う人」とは?
では、「組織の管理下で業務を行う人」とは誰を指すのでしょうか。これには「組織の従業員」が含まれることはもちろんですが、必ずしもそれには限定されません。なぜなら、組織の従業員と同様の業務を派遣社員やパート社員といった人が何らかの契約下で実施している場合であっても、その人たちが行う業務の結果が組織の環境パフォーマンスに影響したり順守義務を満たす組織の能力に影響したりするのであれば、その人たちにも従業員に求められるのと同じような力量が求められるからです。重要なことは、必要な力量を持っていることが要求される対象の範囲は、正社員かそうではないか、といった契約形態によって決まるのではない、ということです。
ただ他方で、この範囲を必要以上に拡大解釈することも適切ではないでしょう。この場合に議論になりうるのが請負先の人々でしょう。ある業務を別の組織が請け負っている場合、法律上の管理責任は請負会社にあるため、その業務を行っている請負会社の人々は直接的に「組織の管理下」にあるとは言えないかもしれませんが、だからと言ってその業務の結果に組織が責任を有しないということではありません。組織としては必要な力量を持った人によってその業務が遂行されるようにするために、必要に応じて要求すべき力量を明らかにして請負先組織に示すことが必要でしょう。この点については、ISO14001:2015の附属書A.3での以下の説明も参考になるでしょう。
「”組織の管理下で働く人(又は人々)”という表現は、組織で働く人々、及び組織が責任をもつ、組織のために働く人々(例えば、請負者)を含む。この表現は、旧規格で用いていた”組織で働く又は組織のために働く人”という表現に置き換わるものである。この新しい表現の意味は、旧規格から変更していない」
ここでは機械設備の操作や有害物質の取扱いといった技術的な力量が含まれることは当然のことながら、それ以外にも、場合によっては語学力や読み書きの能力といったものも含まれる可能性があります。人手不足に伴って外国人労働者の増加が今後ますます進んでいくことが予想される状況にあって、これらの力量を考慮することの重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
(次回に続く)