【ISO14001】5.3 組織の役割、責任及び権限
誰が、何をしなければならないか、何をしても良いのかを明確にしよう
この項目の要求事項を一言で言うと、「トップマネジメントは、組織の役割、責任、権限を明確にしなければならない」ということです。環境マネジメントシステムを適切に運用するためには、組織内の各自がその役割に応じて適切に行動することが不可欠です。そのためトップマネジメントは、各自がその役割において、何をしなければならず、何をすることが許容されているかを明確にし、それを伝達して各自が確実に理解できるようにすることが期待されています。
「責任」「権限」とは?
この項目の前半部分では、それぞれの役割に対する「責任」と「権限」を明確にすることが要求されていますが、これらの当たり前に使っている「責任」「権限」とはそもそもどのような意味なのでしょうか。これらについてはISO14001:2015で定義していませんので、いつものように辞書を引いて調べてみましょう。すると以下のような意味が書かれています。
- 「責任(responsibility)」:「何か/誰かを扱ったり注意を払ったりする義務で、物事が悪い方向に進んだときに責められる可能性があること」(OALD)
- 「権限(authority)」:「何かを行う力や権利」(OALD)
つまり「責任」とは「義務」、「権限」とは「力や権利」であり、言い換えると、「責任」とは「やらなければならないこと」、「権限」とは「(与えられた力や権利に基づいて)やってもいいこと・やることが許容されていること」ということが言えそうです。この項目の前半部分では、一般論として環境マネジメントシステムを実施していく上で必要な役割に対して、このような意味での「責任」と「権限」を明確に割り当て、理解させることを要求していますので、まずは組織のそれぞれの役割において、誰が何をしなければならず(責任)、何をすることができる(許容される)のか(権限)を明確にすることになるでしょう。また、ここではこのような「責任・権限」を文書化した情報として維持することも求められていますので、例えば「職務分掌規定」や、更には各手順書のような文書の中でより詳細に責任・権限が文書化されることになるでしょうが、どの程度詳細に文書化するかは、組織の状況によって異なりますので、組織ごとにその必要性に応じて判断することになります。
「管理責任者」はいらない?
前半部分は一般論としての要求でしたが、後半部分では、特に以下のことに関する責任と権限を割り当てることを要求しています。
- 環境マネジメントシステムがこの規格の要求事項に適合するようにする。
- 環境マネジメントシステムのパフォーマンスをトップマネジメントに報告する。
以前のISO14001:2004ではここで一人又は複数の「管理責任者(management representative)」を任命しなさい、という明確な要求があったのですが、ISO14001:2015ではそのような要求はなくなっており、代わりに上に書いたような特別な責任・権限を割り当てなさい、という要求になっています。それでは、今まで要求されていた「管理責任者」はもう必要ないのでしょうか。
結論から言えば、すでに「管理責任者」を任命している組織は、規格にこの言葉がないからと言ってそれをやめる必要はありません。ここで規格が言いたいのは、「管理責任者」という名前の人を任命する、という「形」が大事なのではなく、「管理責任者」が持つべき「責任・権限」をきちんと割り当てることが大事なのだ、ということです。
「管理責任者(management representative)」の”representative”とは、本来「代理」という意味ですので、「管理責任者」が意味するのは「経営者(management)の代理(representative)」ということになります。トップマネジメントは通常非常に多忙であり、組織経営に関する全体的な責任を持っていますので、環境マネジメントシステムの実務的な詳細に対して日常的に監視し、把握することが難しい場合が多いでしょう。そのため、そのようなトップマネジメントに代わって、環境マネジメントシステムの実務的な運用を統括して管理し、その状況を報告することが「管理責任者」には期待されているのです。
しかしながら、「管理責任者を任命しなさい」という「外形的な」要求事項が一人歩きしてしまい、本来代理であるはずの「管理責任者」を任命した時点で、環境マネジメントシステムの運用・維持が全て「管理責任者」に任せ切りにされてしまい、その結果、トップマネジメントが環境マネジメントシステムに対して十分な関心を示さないことが見受けられることがありました。これでは、実際の経営と環境マネジメントシステムとの間に大きなギャップが生じてしまい、有効な環境マネジメントシステムにはなりませんし、5.1で要求されている「説明責任」も果たせなくなってしまうでしょう。
このような事態を避けるために、この項目では、「管理責任者を任命する」という形式的な要求をやめることで、それが一人であるか複数であるか、どのような立場の人であるかを問わず、ここで挙げられた必要な責任・権限が実質的に割り当てられるようにすることが重要であることが強調されているのです。従って、このような規格の意図を汲み、ここで要求されている責任・権限を適切に割り当てられているか、ということをまず考え、それができているのであれば、その割り当てられている人が従来の「管理責任者」であれば全く問題ありませんし、その人が「管理責任者」と呼ばれていなくても全く問題ありません。