【言葉のチカラ】記憶

新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中が大きな困難に直面しています。

しかし人類は今までも数々の苦難に遭遇しながら、そのたびにそれらを乗り越え、力強く立ち上がってきました。

「言葉」によって目に見えないものの存在や価値を認識することができる唯一の生き物である私たち人間は、そのような苦境に直面した時、たった一つの「言葉」との出会いによってその苦境を乗り越える勇気や希望を与えられることがあります。

言葉がもつそのような「チカラ」を信じ、ここでご紹介する言葉が、誰かにとってのそのような出会いの言葉となることを祈って。

記憶しよう。記憶しなくてはならない。我々の記憶の中にこそ、我々みんなの希望があるのだから。(エリ・ヴィーゼル)

エリ・ヴィーゼルは、自身のナチス強制収容所での経験を元にした自伝的小説『夜』で知られるアメリカのユダヤ人作家です。

 

この言葉は、彼が1995年に広島の平和記念資料館を訪れたときに残した言葉です。資料館ではそこを訪れた著名人の言葉に出会うことができますが、その中でも特に強く心に残る言葉の一つでした。

 

ホロコーストも、原爆も、人類が生み出した最悪の出来事の一つですが、このようなことを二度と起こさないようにするためには、これらの出来事を記憶し続ける義務が私たちにはある、という彼の力強いメッセージに心を動かされます。

 

新型コロナウイルスは、ホロコーストや原爆とは同列に論じることはできないとは思いますが、奇しくもこのコロナの感染が急速に拡大するイタリアで、科学者であり作家であるパオロ・ジョルダーノ氏が『コリエーレ・デッラ・セーラ紙』(2020/3/20)で似た言葉を書いています。この「コロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」という文章の中で、彼は今回の経験で忘れたくないことを列挙し、このコロナで経験した様々なことを「忘れてしまうこと」を恐れ、それらを「忘れないこと」の大切さを切実に訴えています(この文章は著書『コロナの時代の僕ら』のあとがきとして掲載されています)。

 

この経験を無駄にせず、これから来る「ウィズ・コロナ」の時代をより良いものにするために、まず私たちがすべきことは「記憶すること」なのかもしれません。

 

エリ・ヴィーゼル(1928~2016)

ルーマニア出身のアメリカのユダヤ人作家。ノーベル平和賞受賞者。