【言葉のチカラ】リスク

新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中が大きな困難に直面しています。

しかし人類は今までも数々の苦難に遭遇しながら、そのたびにそれらを乗り越え、力強く立ち上がってきました。

「言葉」によって目に見えないものの存在や価値を認識することができる唯一の生き物である私たち人間は、そのような苦境に直面した時、たった一つの「言葉」との出会いによってその苦境を乗り越える勇気や希望を与えられることがあります。

言葉がもつそのような「チカラ」を信じ、ここでご紹介する言葉が、誰かにとってのそのような出会いの言葉となることを祈って。

我々のリスク認知は、比較的小さなリスクを過大評価し、大きなリスクを過小評価する傾向がある。(ダニエル・カーネマン)

ダニエル・カーネマンは『ファスト&スロー』などの著作で日本でも広く知られる心理学者、経済学者です。心理学に基づくより現実的な意思決定モデルをエイモス・トベルスキーとともに理論化した「プロスペクト理論」は行動経済学の代表的な理論の一つとして知られ、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。

 

「リスク」という言葉は「リスクマネジメント」「リスク管理」というような形でビジネスの世界でもよく使われますが、そもそも何を「リスク」と捉えるかによってその後の管理は全く変わってきます。リスクの大きさを評価する様々な手法も開発されていますが、そもそも誰にも分からない不確実な未来の状況に対してそれを完全に客観的に評価することは多くの場合非常に難しく、どうしても評価する人の経験や思考の偏りによる主観的な要素が入ってしまうことが避けられないのも事実でしょう。

 

2001年9月10日までの時点では、おそらく世界中のほとんどの人は旅客機が高層ビルに突っ込むようなことが起こることを考えてもいなかったでしょうし、2011年3月10日までの時点ではあれほど巨大な津波が起こることを少なくとも現実感をもって想定している人は非常に少なかったでしょう。そして現在の新型コロナのような感染爆発が世界中で起こることも2019年末の時点ではほとんど誰も考えていなかったと思います。

 

しかし今になると、これらのことは過去の長い歴史を見れば必ずしも全くありえない話ではなかったことにも気づかされます。その意味で、私たちのリスク認知はあまりに大きなリスクからは目を逸らし、対応可能なもっと小さなリスクばかりに目を向けてしまう傾向があるのでしょう。

 

あらゆることを恐れてばかりいてはキリがありませんが、少なくとも自分たちが経験したことだけでも風化させず、今後のリスク認知に活かしていきたいと思います。

 

ダニエル・カーネマン(1934~)

アメリカの心理学者、行動経済学者。