【ISO質問箱】(共通)ISO審査の工数ってどうやって決まるの?

ISO9001やISO14001、ISO45001の認証を受けるには、当たり前のことですが、認証機関による審査を受ける必要があります。この審査にかかる時間(工数)はどのように決まるのかご存じですか?これを知ることで、より適切な認証機関選びに役立てることもできます。

 

審査工数の算出方法は国際的に決められている

まず具体的な工数の算出方法をご説明する前に知っておいていただきたいことは、審査工数の算出は認証機関が勝手に決めているのではなく、国際的な基準で決められている、ということです。

 

認定機関(日本ではJABやISMS-AC)から認定を受けているマネジメントシステムの認証機関に対して適用される認定基準にはいろいろなものがありますが、中心となるものはISO/IEC17021-1(情報セキュリティのISO/IEC27001ではこれに加えてISO/IEC27006という基準が適用されます)というものです。この文書は審査工数を含む認証機関に対する全体的な要求事項を決めているのですが、そのほかに、これを補完するものとしてIAF(国際認定機関フォーラム)が定めた基準文書(MD:Mandatory Document)があります。これもいくつかあるのですが、審査工数についてはMD5(但しこれはISO9001、ISO14001、ISO45001に対してのみ適用されます)で規定されています。また、MD1という文書では複数のサイトを持つ組織にする要求事項が規定されているのですが、複数サイトの組織の審査工数算出についてはこの文書も大きく関係します。従って、認定された認証機関は、工数算出に当たってこれらの認定基準に従わなければなりません。

 

適用範囲内の人数が出発点

それでは、これらの認定基準では審査工数の計算に関してどのようなことを規定しているのでしょうか。これは一言では言えないくらい様々な要素があるのですが、出発点としては適用範囲内の人数が考慮されます。認定基準にはそれぞれの規格について、組織の人数に基づいて登録審査の工数を算出するための工数表というものがあります。ですので、組織の人数をこの工数表に当てはめて工数を算出する、ということが基本になります(なお、ISO14001やISO45001については、業務内容に基づく環境や安全衛生上の負荷の違いによって「高い(H)」「中程度(M)」「低い(L)」の3つに分類され、工数が異なります)。

 

ただ、このときの人数は必ずしも適用範囲に含まれる実人数と同じわけではなく、単純作業に従事する人数やフルタイムではない人の人数などを考慮して算出される「有効要員数」が使われます。従って、例えば全体の人数のうち多くの人数が単純で同様な作業に従事しているような場合は、有効要員数は実人数よりも少なく計算され、それに伴って審査工数も少なくなる場合があります。

 

そして、組織の様々な要素に伴うリスクを考慮して、出発点としての審査工数が増加又は削減されることも認められていますが、工数を削減する場合には元の工数の30%よりも多く削減してはならないことが決められています。

 

複数のサイトがある組織の工数は各サイトの工数を積み上げる

組織が単一のサイトから成る場合は上記のように比較的簡単に工数が算出されますが、組織に複数のサイトが含まれる場合(例えば本社の他に、別の場所にある支店や工場が含まれる場合)、この計算はより複雑になります。

 

この場合、まず基本になるのが、各サイトの人数から工数表に基づいて個別に審査工数を算出し、それらを積み上げて全体の工数を算出します。例えば、本社以外に2つの工場と3つの営業所がある組織の場合、以下のような計算になります。

  • 6つのサイト(本社、2つの工場、3つの営業所)のそれぞれの人数から、それぞれのサイトに必要な工数を工数表に基づいて算出する(但し、中央機能を持つサイト以外のサイトは50%までの削減が認められています)。
  • 上記で計算した各サイトの工数を合算して、全体の工数を決定する。

 

そして、通常は複数のサイトがある組織の方が、単一サイトの組織よりも審査工数は大きくなる、ということが言えます(単一サイトの場合よりも複数サイトの場合の方が審査工数が少なくなるということはありません)。

 

複数サイト組織の工数は「サンプリング可否」によっても大きく変わる

そして複数サイトの工数に大きく影響する要素がもう一つあります。それは、各サイトを「サンプリングすることができるか」の判断です。例えば、本社以外にいくつかのサイトがある場合、それらのサイトの活動や規模が同様と見なせる場合、それらはサンプリングすることができるため、全てのサイトを審査する必要はありません(この場合のサンプリング数についても認定基準で決められています)。

 

しかし、これらのサイトがそれぞれ異なる活動を実施していたり、規模が大きく異なったりした場合、これらはサンプリングすることができないため、登録審査や更新審査では基本的に全てのサイトを審査する必要があります(定期審査ではサイト数の30%以上を審査することが必要です)。そうすると、サンプリングを適用できる場合よりも(特に登録審査や更新審査の場合は)審査しなければいけないサイトが多くなり、積み上げる審査工数が多くなるため、当然全体の審査工数はサンプリングできないと判断した場合の方が大きくなります。

 

国際基準によって審査工数の算出方法が決められているのになぜ認証機関によって審査工数が異なるのか、と思われる方も多いと思いますが、審査工数を決めるには上記のような様々な要素がからみ、これらの要素をどのように判断するかが認証機関によって異なることがあるため、結果としての審査工数が異なってくる場合があるのです。

 

審査工数算出の根拠から認証機関の審査ポリシーが見える

認証機関を選ぶ際に複数の機関から審査の見積りを入手する場合が多いと思います。ただ、その際に単に審査費用が安いからという理由だけで認証機関を判断するのは少々危険です。というのも、審査費用の元となる審査工数の算出は、上記のように認証機関がその組織をどのように審査しようとしているのかのポリシーが大きく関係してくるからです。

 

従って、最終的な審査費用だけでなく、その根拠である審査工数がどれくらいか、そしてその工数をどのような考えに基づいて算出したのかということを確認することで、それぞれの認証機関の審査に対するポリシーを理解することが重要です。それによって、長く付き合える、より良いパートナーとしての認証機関選びにつなげることができるでしょう。

 

まとめ

審査工数の出発点は、「有効要員数」を元に、国際的に決められた工数表に当てはめて算出するが、そのほかに様々な要素が関わってくる。また、特に複数サイト組織の場合は、審査工数の算出においては認証機関がその組織をどのように審査しようとしているのかのポリシーが大きく影響してくる。審査の見積りの際には、審査費用の元になる審査工数算出の根拠についても確認し、認証機関の審査に対する考え方を理解することが重要。