【ISO9001】品質マネジメントシステムに必要な資源を使えるようにしよう~「7.1 資源」(3)

(前回の続き)

● 組織の知識(7.1.6
7.1「資源」の最後を飾る7.1.6では、「組織の知識」に関する要求事項が規定されています。これは2015年版で新しく追加された要求事項で、それまでのISO9001には全くなかった項目でした。このような要求事項が追加された背景には、組織固有の貴重な知識が時とともに失われてしまい、それが原因で品質上の大きな問題が発生することが少なからずあるという問題意識があります。ISO 9001:2015の附属書A.7には、この要求事項が新たに追加された目的が以下のように説明されています。

  • 以下のような理由で知識が喪失することから組織を保護する。

≫ スタッフの離職
≫ 情報の取得及び共有の失敗

  • 以下のような方法で知識を獲得することを組織に奨励する。

≫ 経験から学ぶ
≫ 指導者を得る
≫ ベンチマークする

つまり、社員の高齢化や人材の流動化による退職に伴って、これまでそれらの個々人が保有していた経験(失敗例や成功例等)から来る様々な有用な知識が失われてしまったり、それらの個々人が保有する知識が組織として適切に共有されなかったりすることで問題が発生することを防ぐために、こういった個人レベルの知識をいかに組織レベルの知識として共有、蓄積、継承できるようになっているか、が重要だということです。また、新たなニーズへの対応等のために新しい知識を獲得する必要があったり、特に技術革新が早い業界にあっては最新の技術に追随していくために従来の知識を更新したりする必要がある場合もあるでしょう。そのような場合、組織がそれらの適切な知識を内部・外部の資源から獲得できるようになっていることも重要です。

しかし、「必要な知識」と言われても、その意味するところがあまりに広すぎ、どこまでを対象とすべきかが分かりにくい点にあると思われます。そして、それがこの要求事項を理解しにくいものにしている理由の一つでしょう。これについて、この項目ではどのような知識を対象として、それに対してどの程度の管理を実施しなければならないかということは規定されていません(その点では7.1.3や7.1.4と同じです)。従ってここでも重要なことは、プロセスの運用や製品・サービスの適合性に対するリスクとの関連で対象とすべき知識やその管理の程度を決めることです。

組織が必要とする知識は、その組織の状況によって大きく異なりますが、例えば以下のような例が考えられるでしょう。

  • 製造業の製造プロセスの例:原材料知識(素材、特性、環境・安全面等)、製品知識(特性、用途、顧客等)、使用設備の知識(機能、操作、安全面等)、使用燃料・薬品・エネルギー等の知識(機能、用途、環境、安全面等)、手順に関する知識(品質上・環境上・安全上のリスク、効率性等)、検査に関する知識(方法、検査機器等)
  • 歯科医院の受付プロセスの例:患者知識(性格、既往歴、家族構成等)、使用機器に関する知識(レセプトコンピューターの操作方法等)、医薬品の知識、手順に関する知識(エラー防止、効率性等)、関連法規制の知識(保険制度、個人情報保護法等)、販売物品の知識、歯科診療の一般的な知識

この「知識の管理」は独立したプロセスとして運用されるというよりも、多くの場合既存の事業プロセスの中で様々な形で対応されるでしょう。例えば、以下のような対応の例が考えられるでしょう。

  • 人材育成プロセス:ベテランからの業務の引継ぎを行う中で必要な知識を継承する
  • 是正処置プロセス:発生した問題自体を是正するだけでなく、そこから得られた知識を組織内に蓄積し共有する
  • 設計・開発プロセス:新規プロジェクトに必要な知識を明らかにし、それを獲得できるように計画する

重要なことは、組織がこれらの必要な知識の蓄積・共有・継承や獲得・利用のための仕組みを実際に持ち、実施しているということです。従って、この要求事項に表面的に対応するために、単に組織が必要と考える知識をリスト化することは、7.1.3や7.1.4と同様、不要に文書を増やす形骸的・官僚的なシステムを助長するだけであり、この項目の意図するところではありません。