【ISO9001】7.2 力量

必要な力量をもった人が業務を行えるようにしよう

この項目の要求事項を一言で言うと、必要な力量を持った人が(品質マネジメントシステムのパフォーマンスと有効性に影響を与える)業務に割り当てられるようにしなさいということです。そしてそのために必要な事項がa)〜d)に掲げられています。

「力量」とは何か?

まず「力量」とは何を意味するのかを見ておきましょう。「力量」はISO9000:2015で以下のように定義されています。

「意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力」(3.10.4)

ここから分かるように、力量とは「適用する能力」、つまり「できること」という意味を持っています。従って、単に知識として頭で「知っている」だけでは力量を持っていることにはなりません。

どのような力量が必要か?

「力量」とは何かを理解した上で、この項目の内容を見ていきましょう。冒頭に書いたように、この項目では「必要な力量を持った人が業務に割り当てられるようにする」ことが意図されているのですが、そのためにはそもそも「必要な力量」とは何か、を明らかにしなければなりません。従って、まずa)では、「品質マネジメントシステムのパフォーマンスと有効性に関わる業務」を「組織の管理下で行う人」に対して、「必要な力量を明確にする」ことが求められています。ここで考えなければならないのは、「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務」とは何か、そして「組織の管理下で業務を行う人」とは誰か、ということでしょう。

「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務」とは、組織の「すべての業務」ではありませんが、例えば製造業で言う「製造現場の作業」に限定されるものでもありません。これは組織の状況、組織の製品・サービスによって異なりますが、例えば経理部門であっても、顧客の要望に沿って見積書を作成する場合には、作成される見積書の正しさは顧客満足に影響するとも考えられるため、その範囲において経理部門の業務は品質マネジメントシステムのパフォーマンスに関連した業務といえるでしょう。また、同じ業務であっても、その組織の製品・サービスが何であるかによってこの対象と捉えるべきかどうかは変わり得ます。例えば、製造業者におけるトイレの清掃業務は組織の製品の品質への影響から考えると「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務」とは言えないでしょうが、病院やレストランでのトイレ清掃となると意味は大きく異なるでしょう。

では、「組織の管理下で業務を行う人」とは誰を指すのでしょうか。これには「組織の従業員」が含まれることはもちろんですが、それには必ずしも限定されません。なぜなら、組織の従業員と同様の業務を派遣社員やパート社員といった人が何らかの契約下で実施している場合であっても、その人たちが行う業務の結果が組織の製品・サービスの品質や顧客満足に同じように影響するのであれば、その人たちにも従業員に求められるのと同じような力量が求められるからです(例 製造業の検査業務をパート社員が行っているからといって、同じ業務を行っている正社員と同じ力量を持っていなくても良いということにはなりません)。重要なことは、必要な力量を持っていることが要求される対象の範囲は、正社員かそうではないか、といった契約形態によって決まるのではない、ということです。

このようにして明確にされた「必要な力量」を持った人が、その業務に従事するようにすることがb)で要求されています。この場合、その人が必要な力量を持っているかどうかは、その人がどのような教育や訓練を受けているか、どのような経験を持っているか、といったことを元に判断することになります。このとき、必要に応じてその力量を持っていることを示す証拠を文書化した情報、つまり記録として保持しなければなりません(d)が、これは特に法規制や顧客要求などの理由で必要な場合は特に注意が必要です(例 労働安全衛生法におけるフォークリフトの運転者やクレーンの操作者への資格要件)。

必要な力量をどのようにして持たせるか?

それでは、必要な力量がないと判断された場合はどうすべきでしょうか。それについてはc)で、何らかの手段によって必要な力量を持てるようにすることが要求されています。この、力量を持てるようにする手段の代表的なものが教育訓練ですが、必ずしもそれに限定されるわけではありません。これについては、注記で「現在雇用している人々に対する指導の実施、配置転換の実施」、更には「力量を備えた人々の雇用、そうした人々との契約締結」等があり得ることが書かれています。つまり、社内での配置転換や、場合によっては新たに既に必要な力量を持った人を雇ったり契約したりすることによって必要な力量を持った人を確保するということもあり得ます。またこの注記には記載がありませんが、その業務の方法を見直し、より容易にできるように変更することで、必要な力量のレベルを低くし、結果として現在の人がその力量を持てるようにすることも考えられるでしょう。

必要な力量があることをどのように評価するか?

更に、力量を持たせるために教育訓練やその他の処置を実施した結果、それが目的に対して十分であったか、つまり「処置が有効であったか」を何らかの形で評価する必要があります。この要求は2000年改定の時に初めて導入され、そのとき以降、この要求に対応するために理解度テストのようなものを実施している組織を多く目にしますが、有効性評価の方法として理解度テストをすることだけで十分か、又はそもそも理解度テストが妥当なのか、といったことは検討の余地があるでしょう。なぜなら、「有効性」とは当初の目的を達成しているかどうかで判断すべきであり、この場合の「当初の目的」とは「必要な力量を持たせること」であるからです。そして「力量」とは上で見たように「できること」であって、単に頭で知識として理解したことにとどまらないからです。最終的には教育訓練等によって得られた知識や技能を「適用する能力」、つまり、その業務を問題なく実施できることが要求されているのであり、そうであれば単に理解度テストによって頭で「分かった」かどうかを評価したところで、実際に「できる」かどうかを評価したことにはなりません。だとすれば、この「有効性の評価」は、実際に業務を行ってもらった結果を評価したり、実際に業務を行わせることができない場合は何らかのシミュレーションのような形で実施した結果を評価したりするといった方法がより適切でしょう。

(教育訓練の有効性評価については、以下の関連記事でより詳細に解説しています↓)

http://j-vac.co.jp/questions_training_effectiveness/

イラスト

「必要な力量」のイメージ