【ISO45001】6.1.2.3 労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会の評価

労働安全衛生に関連する機会を明らかにしよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「組織は、労働安全衛生マネジメントシステムに関連する機会を特定し、評価しなければならない」ということです。

「機会」の2つのレベル?

「リスク」の概念は従来のOHSAS18001にもありましたが、「機会」という概念はISO45001で初めて導入された新しいものです。「機会(opportunity)」という用語に対してはISO45001では定義が与えられていませんが、辞書的には「何かを行うことを可能にするような時や一連の状況」という意味と解されます

ISO45001では、「リスク」と同様、「機会」についても2つの異なるレベルが想定されています。つまり、運用レベルを対象とした「労働安全衛生機会」と、システムレベルを対象とした「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」です。

〈2つのレベルの機会〉

 

機会

運用レベル 労働安全衛生機会
システムレベル 労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会

 

これらは具体的にどのような違いがあるのでしょうか。「労働安全衛生機会」については規格が以下のように定義しています。

「労働安全衛生パフォーマンスの向上につながり得る状況又は一連の状況」(3.22)

一方、「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」については特に定義はありませんが、附属書A.6.1.1では、「労働安全衛生機会」と「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」について、それぞれ以下のような説明が加えられています。

  • 「労働安全衛生機会」:危険源の特定、危険源の伝達方法、既知の危険源の分析と軽減に取り組む
  • 「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」:システム改善戦略に取り組む

ここからすると、「労働安全衛生機会」は、危険源を特定したり、伝達したり、既に明らかになっている危険源を分析したり、それを軽減したりする際に活用し、労働安全衛生パフォーマンスを向上させることができるようなものということになるでしょう。例えば、ロボットで危険作業を代替したり重量物を扱う作業時にパワードスーツを着用したりすることが可能な場合、それは危険源を軽減するために活用できる「労働安全衛生機会」と考えられます。

一方、「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」は、システムレベルの改善に活用できるようなもの、ということになります。例えば、ソーシャルメディアを活用して働く人の認識を向上させたり、ビッグデータを活用してインシデントの傾向分析をより効果的に行ったりすることができるような場合、それらの状況(ソーシャルメディアやビッグデータが使える、という状況)はここで言う「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」と考えられるでしょう。

「機会」をどのように評価するか?

それではこれらの「機会」をどのように評価したらよいのでしょうか。「労働安全衛生リスク」を評価するプロセスは、ある程度一般的に受け入れられたものがありますが、「機会」については、「労働安全衛生機会」「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」のいずれについても、そのような一般的に受け入れられている方法というものはありませんので、具体的にどのようなプロセスで評価するかを決定することは難しく感じられるかもしれませんが、逆に言えば、その方法は組織が適切と思う方法を考えれば良いので、組織の自由度が大きく認められているとも言えます。

「労働安全衛生機会」の場合は、上記のように危険源に関連したものであるため、危険源から「労働安全衛生リスク」を特定する際に、併せて検討することができるでしょう。また、「労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会」については、4.1で特定した課題や4.2で特定した利害関係者のニーズ・期待といったことに関連するものであるため、それらの情報をどのようにインプットし、それに基づいて誰が、いつ、どのような観点で評価するのか、といった仕組みを明確にすることが望まれます。

ここでも重要なことは、このようなプロセスを明確にすることで、これらの「機会」を一度きりではなく、繰り返し継続して適切に評価することができるようにし、それによって機会を適切に活用し、労働安全衛生マネジメントシステムやそのパフォーマンスを効果的に改善し続けるようにすることです。

なお、先の5.4で見たように、この機会の評価には非管理者が参加することが要求されているため、機会を評価するプロセスを確立する際には、そこに非管理者が参加できるようにしなければなりません。