【ISO14001】6.1.1 (リスク及び機会への取組み)一般(2)

マネジメントシステムをリスクに基づいて戦略的に計画しよう

(前回の続き)

何のために「リスク・機会」を特定するのか?

では、何のために「リスク・機会」を特定する必要があるのでしょうか。この項目では、その目的として、以下を挙げています。

  • 環境マネジメントシステムが意図した成果を達成できる確信を与える。
  • 望ましくない影響を防止・低減する。
  • 継続的改善を達成する。

 

「望ましくない影響」というマイナス面の防止・低減だけでなく、「意図した成果」や「継続的改善」といったプラス面の達成も目的とされているところに、環境マネジメントシステムを「守り」だけでなく「攻め」にも活用して欲しいというISO14001の思いが読み取れます。

何に関するリスク・機会を特定するのか?

それでは、どのようなことに関してリスク・機会を特定すれば良いのでしょうか。この項目では、以下の3つに関連したリスク・機会を特定することが要求されています。

  • 環境側面(6.1.2参照)
  • 順守義務(6.1.3参照)
  • 4.1, 4.2で特定した課題と要求事項

 

これらのうち、環境側面と順守義務に関しては、具体的には次に出てくる6.1.2, 6.1.3に従って実施していけば良いので、比較的わかりやすいでしょう。ちなみにISO14001:2015の付属書A.6.1.1では、それぞれについて以下のような例が挙げられています。

  • 環境側面・・・有害な環境影響、有益な環境影響、組織に対するその他の影響に関連するリスク・機会
  • 順守義務・・・不順守(組織の評判を害する、又は法的行動につながり得る)、順守義務を超えた実施(組織の評判の向上につながり得る)のようなリスク・機会

4.1, 4.2と「リスク・機会」との関係

それでは、上記のうち、「4.1, 4.2で特定した課題・要求事項に関連したリスク」というのはどのように考えたらよいのでしょうか。

 

それぞれの項目のところで説明したように、4.1の内外の課題や4.2の利害関係者の要求事項は「組織の状況」を把握するために特定するものです。そしてその「組織の状況」は、「現在の」課題や要求事項に基づく「現在の」状況です。それに対して、「リスク・機会」は「将来の」可能性に言及していると考えられます。つまり、4.1や4.2を元にして明らかになった現在の状況に基づいて考えたとき、将来良いことも悪いことも含めてこんなことが起こるかもしれない、ということが「リスク・機会」ということになるでしょう。

 

ピーター・ドラッカーはこう言っています。

「未来について言えることは、二つしかない。第一に未来は分からない。第二に未来は現在とは違う」(『創造する経営者』)

「未来」は誰にも分かりません。しかし、経営者はその分からない未来に対処していかなければなりません。ではどうしたら良いのか。ドラッカーは「すでに起こったこと」を観察すれば、それがもたらす帰結として未来が見えてくると言い、これを「すでに起こった未来」と呼んでいます。

 

これになぞらえれば、4.1や4.2に基づく「組織の状況」が「すでに起こったこと」であり、それを観察することで見えてくる未来の可能性がここで言う「リスク・機会」ということが言えるでしょう。

 

「組織の状況」と「リスク・機会」の関係

ISO14001:2015の付属書A.6.1.1では、「4.1, 4.2で特定した課題・要求事項に関連したリスク」の例として以下のようなものが挙げられています。

  • 作業者間の読み書きの能力や言語の障害のために現地の業務手順を理解できないことによって環境に流出させてしまう
  • 気候変動によって洪水が増加する
  • 経済的制約によって、有効な環境マネジメントシステムを維持するための資源が入手できない
  • 政府の助成を利用することで、大気の質を改善し得る新しい技術を導入する
  • 干ばつ期における水不足によって、排出管理設備を運用する組織の能力に悪影響が出る

 

これらのリスク・機会は今までのISO14001では取り上げられてこなかったものであり、このような組織レベル・システム全体のレベルに関わるようなリスクや機会も取り入れていくことで、より効果的で戦略的な環境マネジメントシステムにしていくことが期待されているのです。

潜在的な緊急事態の決定

また、ここでは「環境影響を与える可能性のあるものを含め、潜在的な緊急事態を決定」することが要求されています。「緊急事態」の特定に関しては、次の6.1.2でも言及されていますが、なぜここでもこのように規定されているのでしょうか。

 

これは「環境影響を与える可能性のあるものを含め」という言葉にポイントがあります。「環境影響を与える可能性のあるものを含め」ということは、「環境影響を与える可能性のないものもある」ということを暗に意味しています。それでは「環境影響を与える可能性のない緊急事態」とはどのようなものでしょうか。そのようなものには、例えば以下のようなものが考えられるでしょう。

  • 大規模災害や異常気象に起因する緊急事態
  • 公開している環境情報が不正確であったことが公知となった際の企業評価へのダメージ

 

つまり、ここでは「組織レベル・システムレベル」の視点での緊急事態について言及されていると考えることができます。そして、次の6.1.2(環境側面)で出てくる緊急事態が、日常的な運用での事故による有害物質の水系や大気への流出といった、「運用レベル」の緊急事態とともに、より広範に緊急事態のリスクを捉えていくことが意図されていると言えるでしょう。

リスク・機会に関する文書化要求

この項目の最後には、リスク・機会に関連した文書化要求について規定されています。ここでは、以下の2つに関して文書化した情報を維持することが必要です。

  • 取り組む必要があるリスク・機会
  • 6.1.1~6.1.4で必要なプロセスが計画通りに実施される確信を持つのに必要な程度の、それらのプロセス

 

言い換えると、前者は、4.1, 4.2の課題や要求事項、環境側面、順守義務に関連して特定されたリスク・機会自体を文書化することであり、後者は、これらのリスク・機会を適切に特定し(6.1.1~6.1.3)、それらのリスク・機会にどのような対応するかの計画を立てる(6.1.4)ための「プロセス」を文書化することと言えます。