【ISO45001】 5.2 労働安全衛生方針

組織の目指すべき方向性を決めよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「トップマネジメントは、労働安全衛生方針を通じて、労働安全衛生に関して組織が目指すべき方向性を示さなければならない」ということです。この項目は、更に、確立すべき方針の「内容」に関する前半部分と、確立された方針の「運用」に関する後半部分に分かれています。

イラスト

 「労働安全衛生方針」とは?

それでは、まず「労働安全衛生方針」とは何かを見てみましょう。ISO45001:2018では以下のように定義されています。

「働く人の労働に関係する負傷及び疾病を防止し、安全で健康的な職場を提供するための方針」(3.15)

そして「方針」は以下のように定義されています。

「トップマネジメントによって正式に表明された組織の意図及び方向付け」(3.14)

従って、両者を合わせると、「労働安全衛生方針」とは以下のような意味になるでしょう。

「働く人の労働に関係する負傷及び疾病を防止し、安全で健康的な職場を提供するために、トップマネジメントによって正式に表明された組織の意図及び方向付け」

ここから分かるのは、労働安全衛生方針とはトップマネジメントが正式に表明するものであり、労働安全衛生に関してどのような方向性を目指すのかを示したものである、ということです。

労働安全衛生方針の「内容」

それでは、労働安全衛生方針はどのような内容のものであるべきなのでしょうか。それが書かれているのが、前半部分です。ここでは、労働安全衛生方針に含むべき内容として以下の6つが規定されています。

  1. 労働に関係する負傷・疾病を防止するために、安全で健康的な労働条件を提供するコミットメントを含み、組織の目的・規模・状況と、労働安全衛生リスク・機会の固有の性質に対して適切である
  2. 労働安全衛生目標の設定のための枠組みを与える
  3. 法的及びその他の要求事項を満たすことへのコミットメントを含む
  4. 危険源を除去し、労働安全衛生リスクを低減するコミットメントを含む
  5. 労働安全衛生マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む
  6. 働く人・働く人の代表の協議・参加へのコミットメントを含む

 

a)で言っている「組織の状況」とは、先に見た4.1や4.2で特定された組織の状況のことを言っています。ここでは「労働安全衛生方針を策定する際に参考にすべきこと」について規定しており、ここに挙げられた内容(目的・規模・状況・固有の性質)と整合している必要がある、ということが求められています。これが整合していないと、組織の実態と、労働安全衛生マネジメントシステムとして目指す方向性としての労働安全衛生方針が合わない、ということになってしまい、結果として労働安全衛生方針に基づいて策定される労働安全衛生目標も組織の実態とずれたものになってしまい、組織として有効なものにならない、ということになるでしょう。従って、そのようなことのないようにするためにも、労働安全衛生方針はここに挙げられた事項に沿ったものにする必要があるのです。

 

ここではまた、以下の5つのことに対するコミットメントを含むことが求められています。

  • 労働に関係する負傷・疾病を防止するために、安全で健康的な労働条件を提供するコミットメント(a)
  • 法的及びその他の要求事項を満たすことへのコミットメント(c)
  • 危険源を除去し、労働安全衛生リスクを低減することへのコミットメント(d)
  • 労働安全衛生マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメント(e)
  • 働く人・働く人の代表の協議・参加へのコミットメント(f)

 

「コミットメント」とは、ここでは「約束」という意味で理解すれば良いでしょう。これは、労働安全衛生方針の内容からこのような趣旨が読み取れるようにしてください、ということであって、これらの文言をそのまま含めることを意図しているわけではありません。

労働安全衛生方針の「運用」

後半部分では、労働安全衛生方針の「運用」について規定されています。ここでは以下のことが要求されています。

  •  文書化した情報として利用可能にする
  • 組織内に伝達する
  • 必要に応じて、利害関係者が労働安全衛生方針を入手できるようにする

 

なお、ここでは「妥当かつ適切である」ということも要求されていますが、これは「運用」というより方針の「内容」について追加的に規定されたものと考えると良いでしょう。

 

ここで、労働安全衛生方針は「文書化した情報」として利用可能にすることが要求されていますので、何らかの形で文書化する必要があります。9.3では、マネジメントレビューからのアウトプットに、「労働安全衛生マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性」を含めることが要求されていますので、実際にはマネジメントレビューでの検討の結果、状況の変化やそれに伴うリスクの変化に伴って労働安全衛生方針を変更する必要がないか、ということを判断することになるでしょう。

 

「労働安全衛生方針」は、労働安全衛生に関してトップマネジメントが示した意図・方向付けであり、労働安全衛生マネジメントシステムの方向性を決める根幹となるものですから、当然ながら、ただ設定すれば良いのではなく、それが組織内できちんと理解される必要があります。ここで重要なのは、労働安全衛生方針の文言を暗記しているということではなく、そこに込められたメッセージが正しく理解され、労働安全衛生方針を達成するために自分が何をすべきかが理解されていることです。そのためには、組織内での掲示や、朝礼などを通じた周知、方針カードの携帯など、様々な伝達の方法があり得るでしょう。

 

また、労働安全衛生方針が関連する利害関係者に入手可能であるようにする、ということも要求されています。一般的には、組織のホームページやパンフレットに掲載するなどの方法があるでしょう。