【ISO45001】4.3 労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲の決定

どこまで適用するのかを決めよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「自分たちの労働安全衛生マネジメントシステムがどこまで適用されるのか(=適用範囲)を決定しなさい」ということです。労働安全衛生マネジメントシステムを構築・運用する前にこれを明確にしておかないと、後になって「大事なところが入っていなかった!」ということや、逆に「ここまでの範囲は責任持てない!」というようなことが起こってしまいかねませんので、特に大規模・複雑な組織や様々な事業を行っている組織は慎重に検討しましょう。

「適用範囲を決定する」とは何をすること?

では、「適用範囲を決定する」とは、具体的に何を決めることなのでしょうか。これは言い換えると「境界と適用可能性」を決定するということです。つまり、「適用されるところとされないところの境はどこか」(=境界)を決め、「その範囲内で規格の要求事項がどのように適用できるのか」(=適用可能性)を決めるということです。「境界」は、具体的には組織単位・所在地(例 本社:○○県△△市~)や、適用の対象となる活動や製品・サービスの範囲(例 ○○の製造、△△の提供)を明示することによって示すことになるでしょう。

 

「適用範囲」を決めるのはあくまでそれぞれの組織ですから、その決定に当たっては基本的に組織にその判断の自由度と柔軟性が認められます。しかし、「適用範囲を決めなさい」といっても、やみくもに決めれば良い訳ではなく、当然「適切な」適用範囲を決めなければなりません。組織によっては、全体を適用範囲とすることもあるでしょうし、組織の一部を適用範囲とすることもあるでしょうが、特に組織の一部を適用範囲とする場合は、その「適切性」が問題になる場合がありますので注意が必要です。

「適用範囲」をどのように決定するか?

では、「適切な」適用範囲を決めるにはどのようなことを考慮したら良いのでしょうか。この項目は、適用範囲を決める際に考慮すべきこととして以下の3つを挙げています。

a) 4.1で特定した、組織の内外の課題
b) 4.2で特定した、働く人やその他の関連する利害関係者の要求事項
c) 労働に関連する、計画・実行した活動

 

ここで早速4.1、4.2で検討したことが出てきますね。これらの項目によって、「自分たちの組織はどのような組織なのか(=組織の状況)」を把握し、それが最終的に組織の「戦略的方向性」につながる、と書きましたが(4.2参照)、適用範囲を決める際にはこの「組織の状況」と、そこからくる組織の「戦略的方向性」から考えて重要と考えられるところを含めるようにすべきでしょう。

 

なお、少々細かい点ですが、a)の「4.1で特定した、組織の内外の課題」は「考慮」しなさい、b)の「4.2で特定した、働く人やその他の関連する利害関係者の要求事項」とc)の「労働に関連する、計画・実行した活動」は「考慮に入れ」なさい、と書かれています。これは一見同じように見えるのですが、規格は意図的に使い分けています。詳しくは「ISO9001:2015誌上講義 『考慮する』と『考慮に入れる』はどう違う? ~コラム4:規格の文言に隠された意図」を参照していただきたいのですが、簡単に言うと、「考慮する」よりも「考慮に入れる」の方が強い意味が込められているのです。つまり、前者は考慮した結果採用しなくても構いませんが、後者は考慮し、該当するものがあれば採用しなければならない、ということを意味しています。

 

上で書いたように、組織によっては全体ではなく一部に限定して労働安全衛生マネジメントシステムを適用しようとするところもあるでしょうし、ISO45001:2018では組織がそのように適用範囲を一部に限定することを認めています。一方で、この項目では「労働安全衛生マネジメントシステムは、組織の管理下又は影響下にあり、組織の労働安全衛生パフォーマンスに影響を与え得る活動、製品及びサービスを含まなければならない」ということが言われています。「組織の労働安全衛生パフォーマンスに影響を与え得る活動、製品及びサービスを含まなければならない」と言っていますので、組織の労働安全衛生上重要な活動や製品・サービスを除外するためや、法的要求事項の適用を逃れるために適用範囲を限定することはできません(ISO45001:2018, 附属書A.4.3参照)。

 

また、「組織の管理下又は影響下にある」活動、製品及びサービス、といった場合、それはどこまでを含むのか、ということについては、場合によっては難しい問題があります。例えば、移動中や配送中、客先や在宅での活動中などの人に対して組織がどこまで管理できるか、というと難しい問題があるでしょう。従来、労働安全衛生マネジメントシステムでは、適用範囲は特定のサイト(場所)(例 事務所、工場など)に対する管理に限定され、このようなサイト外での活動に対する管理は考慮されてきませんでした。これについては、ISO45001でもこのような状況に対して組織が管理できる範囲には限界があることは認めており、そのような状況に対する組織の責任は、組織が管理できる程度によるでしょう。いずれにしても、物理的な適用範囲という場合、このような移動中や客先サイト、自宅といった場所は当然含まれませんが(当然これらは登録証に書かれる適用範囲には含まれません)、組織が労働安全衛生上のリスクを評価する際には、こういった側面も含めることで、場合によっては今まで見過ごされてきた労働安全衛生リスクとして捉え、より有効な管理につなげることができるかもしれません(労働安全衛生リスクの評価については、6.1.2で詳細に規定されています)。

「適用範囲」をどのように文書化するか?

最後に、ここで決定した適用範囲は文書化することが要求されています。適用範囲は、特に対外的に重要な意味を持っていますので、誤解のないように正確な内容を文書として示すことが重要です。実際には、多くの組織で作成されている「労働安全衛生マニュアル」のような文書の中や、また対外的に示すという意味でパンフレットやウェブサイトで記述するということもできるでしょう。