【言葉のチカラ】一歩

新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中が大きな困難に直面しています。

しかし人類は今までも数々の苦難に遭遇しながら、そのたびにそれらを乗り越え、力強く立ち上がってきました。

「言葉」によって目に見えないものの存在や価値を認識することができる唯一の生き物である私たち人間は、そのような苦境に直面した時、たった一つの「言葉」との出会いによってその苦境を乗り越える勇気や希望を与えられることがあります。

言葉がもつそのような「チカラ」を信じ、ここでご紹介する言葉が、誰かにとってのそのような出会いの言葉となることを祈って。

最初の一歩を踏み出しなさい。階段全体を見る必要はない。ただ、最初の一歩を上りなさい。
(マーチン・ルーサー・キングJr)

1960年代のアメリカで根強い人種差別と闘い続け、「私には夢がある(I have a dream)」の演説でも有名なキング牧師。インド独立の父、”マハトマ”・ガンディーに啓発された徹底した「非暴力主義」を貫いた彼は、強硬派のマルコムXらと対立しながらも黒人解放運動に大きな足跡を残しつつ、遊説先のテネシー州メンフィスで白人男性の凶弾に倒れ、39歳の若さでこの世を去りました。

 

当時のアメリカの状況からすると想像もできなかった黒人の大統領が誕生するなど、黒人に対する人種差別の状況は当時に比べて大きく改善していると言えますが、「黒人初」が取り沙汰されること自体が、依然として人種差別意識が根強く残っていることの表れかもしれません。

 

「私には夢がある。いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の子孫たちとかつての奴隷所有者の子孫たちが、兄弟の間柄として同じテーブルにつくという夢が」

 

“I have a dream”の演説の中でこう語った彼にとっての「階段全体」はこのような完全に差別のない光景だったのでしょうが、制度としての差別は撤廃できても、人々の間に根強く残る差別意識を完全に取り去ることは非常に難しいと言わざるを得ません。

 

「階段全体」を見ると怯んでしまいそうな状況の中で、「階段全体」をあえて脇に置き、今自分にできる一歩を踏み出すことによって状況を少しでも変えていくことに集中することの大切さに気付かされる言葉です。

 

マーチン・ルーサー・キングJr(1929~1968)

アメリカのプロテスタントバプテスト派の牧師。公民権運動の指導者。