【ISO質問箱】(共通)「予防処置」はしなくていいの?

ISO9001:2015(品質マネジメントシステム)やISO14001:2015(環境マネジメントシステム)、ISO45001:2018(労働安全衛生マネジメントシステム)といった新しいISOマネジメントシステム規格では、それまであった「予防処置」の要求事項がなくなりました。ということは、「予防処置」はもう取らなくてもよいのでしょうか?

 

従来「予防処置」の要求に対して十分対応されてこなかった

ISO9001や14001、45001といった規格の旧版(ISO9001:2008、ISO14001:2004、OHSAS18001:2007など)では、「予防処置」が明確に要求されていましたが、現在のISO9001:2015やISO14001:2015、ISO45001:2018では、この「予防処置」の要求事項がなくなっています。ということは、もう「予防処置」はしなくてもよいのでしょうか。

 

これを考える前に、予防処置が要求されていた以前の状況がどうだったかを思い出してみると、残念ながら「予防処置」が要求されていたときに「予防処置」が十分行われていたとは言えないように思います。

 

というのも、「予防処置」が明確に要求されていた以前の規格に対する審査の中でも、「予防処置の事例はありません」という回答に合うことがよくあったからです。既に起こった問題に対してとられる是正処置はよく行われていても、予防処置となると本当に少なかったというのが実感です。これはなぜなのだったのでしょうか?

 

「予防処置」を取ることが難しかった2つの理由

そもそも、「予防」とは問題が起こっていない時点でそれが発生するのを未然に防ぐ、ということです。となると、「予防処置」の難しさというのは、まだ起こってもいない問題を発見する難しさにあると言えるでしょう。組織を運営する中では、ただでさえ日々問題が起こるわけですが、そのような中で更にまだ起こってもいない問題の芽を発見する。これはよほどそれを見つけようという明確な意思がない限り難しいことだと思います。問題が起こってしまえば、否応なしにその問題の存在に気付かされ、何らかの対応を迫られるのに対し、問題が起こっていない時点では、それを見逃そうと思えば見逃せてしまえるわけですし、そもそもそれが問題になりうるとも思わないかもしれないわけです。それにも関らず、毎日の忙しい業務の中でそれをあえて拾い上げていこうというのですから。

 

また、「予防処置」のもう一つの難しさとして、予防されたことを記録として情報化することが挙げられます。つまり、通常は「予防されたことは、情報化されない、報道されない」のです(養老孟司著 『養老孟司の<逆さメガネ>』より)。これは歴史を見れば分かります。歴史はすべて実際に起こったことの記録であり、何かが「起こらなかった」ことは歴史に残りません。だから、この「起こらなかった」ことのために払われた努力も人に知られることがないのです。

 

今までのISO規格にあった「予防処置」に対応しようとすると、このように「予防処置」を意識的に実施し、それを記録に残すことが必要ですが、それはこのような理由から難しかった訳です。そしてこのような事情から、審査で「予防処置」について聞いても、なかなか回答がないことが多かったのでしょう。

 

リスクに対応することで「予防」が求められている

しかしながら、だからと言って「予防処置」を本当にその組織は行っていないのか、というと、決してそんなことはありません。

 

私たちの日常を例に取ると、例えば朝出勤するときに「今日は雲行きが怪しそうだから、念のため傘を持っていこう」とか、「今は曇っているけど、これから晴れるらしいから傘を持っていく必要はないな」などと考えて、無意識のうちにリスクを評価し、それに対応する処置を取っています。これなどは立派な「予防処置」ですが、私たちはことさらそれを「予防処置」と意識することもなく、ましてやその結果を記録に残すこともありません。しかしたとえそうであっても実際には立派に「予防処置」を取っているのです。

 

このような「予防処置」特有の性質から、新しいマネジメントシステムの規格では、既に発生して目の前に現れている問題に対処する「是正処置」と、発生していないが発生するかもしれない問題に対処する「予防処置」は同列に扱うべきではないと考え、「予防処置」という独立した項目が削除されたと考えられます。

 

しかし、だからと言って「予防処置」の考え方がなくなったのかというと決してそんなことはなく、むしろ「リスクを特定し、それに対処する、というマネジメントシステムの運用自体が予防である」というように、「予防処置」の考え方がより広く、そしてより現実的なものとして捉えられるようになった訳です。

(ISO9001:2015の6.1「リスク及び機会への取組み」の要求事項については以下の関連ブログもご覧ください↓)

【ISO9001】6.1 リスク及び機会への取組み(2)

≫【ISO9001規格解説】【ISO14001規格解説】【ISO45001規格解説】のビデオの「6 計画」の中でも「6.1 リスク及び機会への取組み」の要求事項を解説していますので、ぜひご覧ください(1,000円で1ヶ月間お試しレンタルいただけます)。

【ISO9001規格解説】ビデオはこちら

【ISO14001規格解説】ビデオはこちら

【ISO45001規格解説】ビデオはこちら

 

まとめ

「予防処置」の明確な要求事項はなくなったが、だからといって「予防処置」をしなくてよい、ということではなく、むしろ、マネジメントシステムの中でリスクと機会を特定し、それに対処することによってより効果的な「予防」を実現することが求められている。そのためには、適切にリスク・機会に対処できるようなマネジメントシステムを運用することが重要である。