コロナ禍でISO9001をどのように役立てるか?(2)

(ナイジェル・H・クロフト寄稿※)

 

(前回の続き)

コロナ禍においてISO9001の要求事項をどのように活用するか?

では、ISO 9001はCOVID-19の危機を通じて組織をどのように支援することができるでしょうか。ここでは、いくつかのISO 9001:2015の要求事項を参照しながら、いくつかの方法を示してみましょう。

 

4.1 組織及びその状況の理解

組織が品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する能力に影響を与える外部・内部の課題を決定し、これらの課題を定期的に監視することを要求しています。これは、マネジメントレビューのプロセス(9.3)に重要な情報を提供します。

 

この困難な状況において、臨時のマネジメントレビューを実施することで、パンデミックによってもたらされた変化する状況に素早く対応し、必要に応じて迅速な対応を計画し展開することができるでしょう。製品・サービスの設計(8.3.6)、サービスの提供方法(8.5.6)、必要なプロセス環境(7.1.4)などに対するあらゆる必要な変更は、組織全体に迅速かつ組織化された方法でコミュニケーションされ(7.4)実施されます(6.3)。

 

4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

組織が品質マネジメントシステムに関連する利害関係者は誰で、それらの利害関係者の関連するニーズと期待は何かを決定し、それらの変更を監視することを要求しています。4.1の要求事項と同様に、COVID-19に伴うめまぐるしい変化を監視するには、マネジメントレビューのプロセスを活用することが有用で、特にこのような激変する状況では頻繁にマネジメントレビューを計画することが重要です。

 

品質マネジメントの主な利害関係者は組織の(直接的および間接的な)顧客ですが、以前は重要と見なされていなかった他の利害関係者のニーズと期待も関わってくる可能性があります。例えば、組織が不必要に重要な物資を備蓄したり、他の市民を危険にさらす可能性のある方法で行動したりしないようにするといった社会のニーズ・期待や、在宅勤務に関する柔軟性の向上や重症化リスクの高い親族の世話をするための休職といった従業員や労働者のニーズ・期待といったものも考えられるでしょう。

 

6.1 リスク及び機会への取組み

おそらくCOVID-19への組織の対応という意味でISO 9001の最も重要な項目の一つと言えるでしょう。そしてこれらの要求事項に組織がどのように対応するかが、組織の存続と将来の成功に大きく影響すると思われます。このような不確実な時代には、「(目的に対する)不確かさの影響」というリスクの定義を思い出すべきでしょう。組織が行う決定は、非常に機敏な方法で、かつその決定の元になる根拠はかなり不確実であり、非常に急速に変化する可能性があるということをはっきり認識して行う必要があります。これは、より多くの情報が利用できるようになったときに、下した決定を定期的に再検討し修正する必要があることを意味します。

 

ほとんどの人は、これはISO 9001規格のすべてのレベルで非常に重要な考え方である「PDCAサイクル」の一部だと思われるでしょう。ただ、PDCAサイクルのあまり知られていない「いとこ」とも言える「OODAループ」はあまり知られていないかもしれません。これは、急速に変化するシナリオに対して俊敏に意思決定するためにアメリカ空軍パイロットのジョン・ボイドが開発したものです。OODAループは意思決定への4ステップ(観察、情勢判断、意思決定、行動(Observe, Orient, Decide, Act))のアプローチです。ここでは、利用可能な情報をフィルタリングし、状況に当てはめ、最も適切な意思決定を迅速に行うと同時に、より多くのデータが利用可能になったときには変更を加えることができることを理解することに焦点が当てられています。

 

OODAループはISO 9001で特に言及されていませんが、それを適用することは、急速に変化するCOVID-19の状況の中で大いに役立つものであり、以下の「客観的事実に基づく意思決定」の品質マネジメント原則と完全に一致しています。
「意思決定は、複雑なプロセスとなる可能性があり、常に何らかの不確かさを伴う。意思決定は、主観的かもしれない、複数の種類の、複数の源泉からのインプット、及びそれらに対する解釈を含むことが多い」(ISO 9000:2015、2.3.6)

 

しかし、適切に実施された品質マネジメントシステムは、問題を回避したり、起こる可能性のある問題を最小限に抑えたりするだけではありません。6.1では、機会が発生したときに、機会を認識して行動する必要性も強調しています。

 

したがって、より前向きな組織は、COVID-19の危機に際して、提供できる潜在的な新しい製品やサービスを特定し、既存の製品やサービス(これらの提供方法を含む)に変更を加えたり、競合他社が市場の需要を満たすのが難しいかもしれない新しい市場に参入したりすることで、新しい機会を積極的に模索します。私たちは、人工呼吸器やEPIなどの非常に必要性の高い医療機器を製造するために生産ラインを適応させているエンジニアリング企業や、無料の宅配を行う食料品店、数日から数週間で新しい病院を建設する建設会社の例を見てきました。もちろん、このような機会を追求する際には、関連するリスクを考慮に入れたり、顧客満足(9.1.2)や顧客の安全を保証するために、品質マネジメントシステムの中で顧客や規制機関の要求事項(8.2.2)に対処したりする必要があります。

 

9.3 マネジメントレビュー

上で言及したように、組織は通常よりも短いサイクルでマネジメントレビューを行うことによりメリットを得ることができます。「審査員に示すために年に1回マネジメントレビューを実施する」といった形でこの要求事項に対して受け身的なアプローチをとっている組織にはほとんどメリットがありませんが、自分たちのビジネスにとってマネジメントレビュープロセスを真に重要な要素として受け入れている組織にとっては(5.1.1 c参照)、現在のCOVID-19の危機に対応するために迅速かつ機敏な方法でそれを活用できるようになります。これは、進行中のパンデミックとそれに対する対応の有効性を評価するために世界中で多くの組織や政府が毎日「危機管理(レビュー)ミーティング」を行っていますが、これはそれと同じことです。

 

10 改善

ISO 9001の最後の項目ですが、ここにも組織がCOVID-19の危機に対応するのに役立つ考え方が含まれています。1は、要求事項を満たすだけでなく、将来のニーズと期待にも対応するように製品・サービスを改善する必要性に言及しています。先に述べたように、パンデミックによって顧客のニーズ・期待は大きく変化し、世界が「ニューノーマル」に順応するにつれて、これらの変化のいくつかは今後も続くことが予想されます。10.1の注記では、小さなステップの継続的な改善(推奨されますが)だけでは必ずしも十分ではなく、現状を打破する変更、革新、または組織再編が必要な場合があると言っています。

 

10.2(不適合及び是正処置)もCOVID-19の危機に際して組織に役立てることができます。特に、「再発又は他のところで発生しないようにするため、不適合の原因を除去するための処置をとる必要性を評価」し、「類似の不適合の有無、又はそれが発生する可能性を明確にする」ことの要求事項は、組織の外を見ることで更に強化することができます。これには、例えば他の組織(更には国)から学習し、COVID-19に関連した問題への対策の成否を調査し、同様の問題が自分たちの組織で発生するのを防ぐための処置をとることも含みます。

 

まとめ

これらは、適切に実施された品質マネジメントシステムがCOVID-19の危機において組織を助ける貴重なツールになり得ることを示すいくつかの事例です。そのためには、単に認証のためにISO 9001の要求事項を満たすのではなく、建設的かつ積極的にこれらの要求事項を取り込んでいくことが組織には求められるのです。

 

※ナイジェル・H・クロフト博士は、J-VACの技術担当非常勤取締役である。2010年から2018年まで、ISO 9001:2015規格とISO 9004:2018規格に対する全体的な責任を持つ ISO/TC176/SC2の議長を務め、現在は全てのISOマネジメントシステム規格の基礎となる「附属書SL」の改定に関するISOタスクフォースの議長である。