ISO/PAS 45005: COVID-19パンデミック下の安全な労働のための新しいISO指針

(ナイジェル・H・クロフト寄稿※)

多くの読者は、ISO 45001規格「労働安全衛生マネジメントシステム―要求事項及び利用の手引」をご存じでしょう。これは、組織が労働に関連した怪我や健康障害を防ぐことを目的とした安全で健康的な職場を促進するための一般的な要求事項を提供します。

しかし、2020年は世界を変えた年として記憶されるでしょう。 COVID-19は、私たちの生活の見方、行動の仕方、ビジネスのやり方を一変させました。パンデミックの直接の結果として、大多数の組織が通常直面する健康と安全のリスクは劇的に変化しました。 ISO 45001は、一般的なOHSMSの優れた基盤を提供していますが、ISOは、ISO/PAS 45005(「労働安全衛生マネジメント―COVID-19パンデミック下の安全な労働のための一般指針」)を通じてこれらの課題に対処するための追加の指針を開発しました。ISOは通常、緊急的な市場ニーズに対応するための合理化されたコンセンサス構築プロセスを使用した「ファストトラック」プロセスで、このような公開仕様(PAS)を開発します。

ISO/PAS 45005:2020の構造と内容

ISO / PAS 45005は、世界中の政府、規制当局、及びその他の専門機関によって公開された情報を補完する一連の一般的な指針を提供します。これは、次の原則に基づいています。

  • COVID-19から生じるリスクを管理するための合理的な対策を実施して、労働者及びその他の関連する利害関係者の健康と安全を保護すべきである。
  • これらの措置が実施されていない限り、労働者は働くことを要求されるべきではない。

ISO/PAS 45005は、マネジメントシステム規格に共通する従来の「附属書SL」の共通構造に従う必要はありませんが、リスクベースの「Plan-Do-Check-Act」アプローチを採用しています。これは、COVID-19が、在宅勤務やモバイル環境で働く人々、及び物理的な職場で働く労働者やその他の利害関係者を含む、あらゆる環境の人々の健康、安全、福祉にもたらすリスクの増大に対処することを目的としています。

PAS 45005は、パンデミック下で活動している組織、完全又は部分的な閉鎖後の活動再開又は再開を計画している組織、完全又は部分的に閉鎖された職場の再利用、又は初めての運用を計画している新しい組織を含む、あらゆる規模及び業種の組織に適用できます。

また、あらゆる種類の労働者(例えば、組織で雇用されている労働者、外部提供者の労働者、請負業者、自営業者、代理店労働者、高齢労働者、障害のある労働者、ファーストレスポンダー)及びその他の関連する利害関係者(例 一般の人々を含む職場への訪問者)の保護に関する指針も提供しています。これらすべての状況において、ウイルスの感染リスクを減らすためにとることができるさまざまなアプローチがあることを認識することが重要です。これらには、仕事の再編成、人との接触の最少化、ソーシャルディスタンスの適用、車で一緒に移動する人の数の制限、飲み物や食べ物の共有の回避、及び仕事の過程全体での衛生対策といった対策が含まれます。労働者間、又は労働者と一般市民の間の分離を高めるために、また換気を改善し、表面を消毒するために、敷地のレイアウトを適応させるために取ることができる方策もあります。

COVID-19に関連するリスクの特定と軽減に重点を置くことは、ISO/PAS 45005で提供される14の指針全体に存在しますが、特に箇条4(リスクの計画及び評価)で強調されています。これには、次のような多くの事項を検討することが含まれます。

  • 組織の状況;労働者の健康と安全に影響を与える可能性のある特定の外部及び内部の課題と、これらの問題がパンデミックによってどのように影響を受けるか。
    • 外部の課題には、例えば、地域コミュニティ内でのCOVID-19の蔓延、臨床サービス、検査、治療及びワクチンの利用可能性、個人用保護具(PPE)、手指消毒剤、体温計、洗浄及び消毒材料の入手可能性、労働者が通勤する方法(例 公共交通機関、車、自転車、徒歩)、労働者の子供のための育児と学校教育へのアクセス、在宅勤務に対する労働者の家の適切性、労働者の家庭内の状況(例 COVID-19に感染するリスクやCOVID-19から重篤な病気にかかるリスクが高いと考えられる人と一緒に暮らす)が含まれる可能性があります。
    • 内部の課題には、組織の種類と関連する活動(製造、サービス、小売、ソーシャルケア、トレーニング又はその他の教育、提供、流通など)、組織内の労働者の種類(例 雇用者、請負業者、ボランティア、フリーランス、パートタイム、シフト労働者、遠隔労働者)、職場の数と種類(例 オフィス、工場、作業場、倉庫、車両、小売店、労働者の自宅、他の人の家)及び労働者の属性(例 障害のある労働者、さまざまな民族及び信仰グループの労働者、さまざまな年齢の労働者)といったことが含まれる場合があります。
  • リーダーシップ及びリスクの評価と軽減における労働者の参画
  • 物理的な職場、在宅勤務、他の人の家(例えば、介護従事者やメンテナンス/サービスエンジニア)、複数の場所、又は移動可能な職場で実施される活動に関する詳細な指針
  • 緊急時の準備及び対応
  • 制限の変更の計画

箇条5

物理​​的な職場、自宅、又はモバイル環境でのCOVID-19感染の疑い又は感染者の管理方法に関する指針、及び検査、接触追跡、検疫に対する要求事項に関する考慮事項が含まれています。

箇条6

パンデミックに関連する心理的な健康と幸福をカバーしています。それは、不確実性に関連した事項(例えば、何が予想されるか、取り決めがどれくらい続きそうか、賃金又は労働時間への影響)、仕事量と仕事のペース、予測できない労働時間、社会的支援の欠如(例 孤独、身体的孤立、コミュニケーションの問題)、長時間の孤立とリモートワークの影響(例 画面への過度の露出、倦怠感、退屈、集中力の欠如、不眠症)といったことに関する指針を提供しています。

箇条7

包括性、つまり、障害のある人や特に脆弱な人を含む、さまざまな労働者グループやその他の関連する利害関係者への影響をどのように考慮するかに対応しています。

箇条8

人的、財政的、及びその他の資源のニーズ(例 PPE、手指消毒施設)に関する指針を提供しています。

箇条9

労働者やその他の関連する利害関係者に情報を提供し続けるための良好なコミュニケーションの重要性を強調しています。

箇条10

汚染された表面からのCOVID-19感染のリスクを低減し、勤務時間中及び各勤務シフトの終了時に良好な衛生状態を実現するための衛生に関する指針を提供しています。

箇条11

PPE、マスク、及びその他のフェイスカバーの使用について説明しています。

箇条12

作業場への入場、退出、作業場間の移動、共用エリア(トイレや会議室を含む)の使用、公共及び仕事に関連した移動といった運用上の考慮事項が含まれています。

箇条13

監視、評価、マネジメントレビュー、インシデント、及び報告といったパフォーマンス評価に関する指針が含まれています-

箇条14

組織の状況トの変化とCOVID-19の安全衛生の問題に関連するリスク軽減策の有効性への対応といった、改善の推進による「PDCA」サイクルの活用が言及されています。

ISO/PAS 45005には、2つの有益な附属書(保護セキュリティとアクセシビリティ/包括性の考慮事項)、及び包括的な参考文献も含まれています。

結論

最近公開されたISO/PAS 45005は、(望ましくはISO 45001に基づく労働安全衛生マネジメントシステムの中で)組織がCOVID-19パンデミックの労働力への影響を最小限に抑えるのに役立つ包括的な指針を提供しています。多くのCOVID-19関連規格と同様に、ISO/PAS 45005は、ISOのWebサイトhttps://www.iso.org/covid19-homeから無料で入手できます。

※ナイジェル・H・クロフト博士は、J-VACの技術担当非常勤取締役である。2010年から2018年まで、ISO 9001:2015規格とISO 9004:2018規格に対する全体的な責任を持つ ISO/TC176/SC2の議長を務め、その後全てのISOマネジメントシステム規格の基礎となる「附属書SL」の改定に関するISOタスクフォースの議長も務めた。2021年4月からはISOマネジメントシステム規格の合同技術調整グループ(JTCG)の新しい議長を務めている。