組織の目指すべき方向性を決めよう~「5.2 方針」

この項目の要求事項を一言で言うと、「トップマネジメントは、品質方針を通じて、品質に関して組織が目指すべき方向性を示さなければならない」ということです。この項目は、更に前半(5.2.1)の「品質方針の確立」と後半(5.2.2)の「品質方針の伝達」に分かれていますが、5.2.1では確立すべき品質方針の「内容」に関して、そして5.2.2では確立された品質方針の「運用」に関してそれぞれ要求事項が規定されています。

● 「品質方針」とは?
それでは、まず「品質方針」とは何かを見てみましょう。ISO9000:2015では以下のように定義されています。

「品質に関する方針」(3.5.9)

正直、これでは説明になっていませんので、更に「方針」とは何かを見てみましょう。「方針」はISO9000:2015で以下のように定義されています。

「トップマネジメントによって正式に表明された組織の意図及び方向付け」(3.5.8)

両者を合わせると、「品質方針」とは以下のような意味になるでしょう。

「トップマネジメントによって正式に表明された、品質に関する組織の意図及び方向付け」

ここから分かるのは、品質方針とはトップマネジメントが正式に表明するものであり、品質に関してどのような方向性を目指すのかを示したものである、ということです。

● 品質方針の「内容」
それでは、品質方針はどのような内容のものであるべきなのでしょうか。それが書かれているのが、前半部分(5.2.1)です。ここでは、品質方針に含むべき内容として以下の4つが規定されています。

a) 組織の目的・状況に対して適切で、組織の戦略的な方向性を支援する
b) 品質目標の設定のための枠組みを与える
c) 適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む
d) 品質マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む

a)で言っている「組織の状況」とは、先に見た4.1や4.2で特定された組織の状況のことを言っており、「戦略的な方向性」とは、それらの状況に基づくリスク・機会の分析(6.1)の結果示されるものということになるでしょう。いずれにしても、ここでは「品質方針を策定する際に参考にすべきこと」について規定しており、これらの内容と整合している必要がある、ということが求められています。これが整合していないと、組織として本当に目指さなければならない戦略的方向性と、品質マネジメントシステムとして目指す方向性としての品質方針が合わない、ということになってしまい、結果として品質方針に基づいて策定される品質目標も組織が本来戦略的に目指すべき方向性とずれたものになってしまい、組織として有効なものにならない、ということになるでしょう。従って、そのようなことのないようにするためにも、品質方針はこれらの組織の状況や戦略的な方向性に沿ったものにする必要があるのです。

ここではまた、「適用される要求事項を満たすこと」と「品質マネジメントシステムの継続的改善」という2つのことに対する「コミットメント」を含むことが要求されています。「コミットメント」とは、ここでは「約束」という意味で理解すれば良いでしょう。これは、品質方針の内容からこのような趣旨が読み取れるようにしてください、ということであって、これらの文言をそのまま含めることを意図しているわけではありません。

このように、「品質方針」に含めるべき内容についてまで規格で指示されることに違和感を覚える方もいるかもしれません。「品質方針」を組織の「経営理念」や「社是」と同じようなものと考えられている場合には、そのように感じられてもおかしくありません(「経営理念」や「社是」の内容に対して外から指図される筋合いはありませんので)。確かに組織の方向性を示す、という意味では両者は共通する部分がありますが、「経営理念」や「社是」というのが主に社内に向けられたものであるのに対して、「品質方針」は社内だけでなく社外に対しても表明するものであることを意図していると考えると、このように品質方針の「内容」にまで規格が言及していることに納得できるのではないでしょうか(だからこそ、次の5.2.2のc)で「利害関係者に入手可能なこと」が要求されていると言えます)。

● 品質方針の「運用」
後半部分(5.2.2)では、品質方針の「運用」について規定されています。ここでは以下のことが要求されています。

a) 品質方針を文書化した情報として利用可能にし、維持する
b) 品質方針を組織内に伝達し、理解させ、適用する
c) 必要に応じて、利害関係者が品質方針を入手できるようにする

ここで、品質方針は「文書化した情報」として維持することが要求されていますので、何らかの形で文書化する必要があります。また、「維持」ということは内容が適切であるようにアップデートされることを意図していますから、必要に応じて見直しを行い、改訂することが重要です。9.3.3では、マネジメントレビューからのアウトプットに、「品質マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性」を含めることが要求されていますので、実際にはマネジメントレビューでの検討の結果、状況の変化やそれに伴うリスク、戦略的方向性の変化に伴って品質方針を変更する必要がないか、ということを判断することになるでしょう。

「品質方針」は、品質に関してトップマネジメントが示した意図・方向付けであり、品質マネジメントシステムの方向性を決める根幹となるものですから、当然ながら、ただ設定すれば良いのではなく、それが組織内できちんと理解される必要があります。ここで重要なのは、品質方針の文言を暗記しているということではなく、そこに込められたメッセージが正しく理解され、品質方針を達成するために自分が何をすべきかが理解されていることです。そのためには、組織内での掲示や、朝礼などを通じた周知、方針カードの携帯など、様々な伝達の方法があり得るでしょう。

また、品質方針が関連する利害関係者に入手可能であるようにする、ということも要求されていますが、これは上で説明したように、品質方針が社内だけでなく、対外的にも表明すべきものとして意図されていることに関係しています。一般的には、組織のホームページやパンフレットに掲載するなどの方法があるでしょう。