【ISO9001】自分たちのシステムにどのようなプロセスがあるのかを明らかにしよう~「4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス」(4)

(前回の続き)

● 「包括的なプロセス要求」とは?
またこの項目では、「包括的なプロセス要求」がされている点にも注意が必要です。「プロセス要求」とは、「~するプロセスを確立しなければならない」というような形で、「必要なプロセスの確立を要求」している要求事項のことで、これに対して、単に「~を実施しなければならない」と、プロセスの確立については言及せず、実施のみを要求しているように書かれている要求事項を「絶対要求」と呼ぶことがあります。そのような目でISO9001:2015(ISO14001:2015や他のマネジメントシステム規格もそうですが)を見ると、多くの要求事項は「絶対要求」の形で書かれていることに気づくと思います。だとすると、このような「絶対要求」で書かれた要求事項では、プロセスの確立は必要ないのでしょうか。

当然のことながら、ISO9001をはじめとしたマネジメントシステム規格は、あくまで「システム」規格であるので、結果的にできている、というだけでは十分ではなく、それがきちんと一貫し、再現性があることが重要です。従って、「絶対要求」で書かれた要求事項であっても、プロセスを確立する必要はなく、結果的に実施できていればそれだけで良い、というのは適切ではありません。ですが、いちいちすべての要求事項で「~するプロセスを確立し、実施しなければならない」と書くのはいかにも回りくどくなりますので、この4.4で、全体に網をかけるような形で(包括的に)プロセスを必要な程度確立することが要求されていると考えることができます(「必要な程度」というのは、リスクを考慮して組織が決めることになります。また、「プロセスを確立する」ための一つの方法として「文書化」することが挙げられますが、これはあくまで一つの方法であって、必ず文書化しなければならない、ということではありません(これについては下記「『文書化に関する一般的な要求』とは?」参照))。なお、同様のプロセスの要求は、後で出てくる8.1「運用の計画及び管理」にも見られます。これは、4.4がシステムの全体レベルで包括的なプロセス要求をしているのに対して、運用レベルについて包括的にプロセス要求をしている項目と考えることができます。

イラスト

マネジメントシステムは「結果オーライ」ではダメ!

● 「文書化に関する一般的な要求」とは?
この項目の後半(4.4.2)では、文書化についての一般的な要求として、以下が要求されています。

  • プロセスの運用を支援するための必要な文書化した情報の維持
  • プロセスの計画通りの実施を確信するための必要な文書化した情報の保持

この2つがどう違うのか分かりにくいかもしれませんが、ざっくり言うと、前者は(記録以外の)「文書」、後者は「記録」について言っています(「文書」と「記録」の違いについては、「『文書』と『記録』はどう違う?~コラム1:文書化した情報の『維持』と『保持』」を参照してください)。つまり、前者は手順書やフローチャート、各種様式など、「プロセスを効果的に運用するための文書」を必要な程度維持しなさい、ということで、後者は検査記録や記入されたチェックシート、議事録など、「プロセスが計画通りに実施されたことを示すような記録」を必要な程度保持しなさい、ということです。

ISOに対する昔からある根強い批判の一つに、「ISOは文書ばかり要求される」というものがあります。ISO9001が発行された当初(1987年版や1994年版)は確かに、組織の事情とは関係なく「手順を文書化」することを規格が要求している部分がかなり多くありました。しかしながら、2000年版の改定のときにこのような「手順の文書化」要求は6つに削減され、そして2015年版ではそれら6つに対しても明確な手順の文書化はなくなり、すべてこの項目で言うように「組織が必要とする程度」文書化すれば良いということになりました(方針や目標、適用範囲などを文書化しなさい、という要求はありますが)。従って、「手順」(=プロセスの運用の方法)に関して言えば、どの程度文書化するのかは組織が判断すれば良いということになります(この判断は「リスク」に基づいて行うことになります)。これは、従来に比べて文書化に関して組織に非常に大きな裁量の余地を認めたものということができます(ちなみに、「記録」に関する要求は従来とさほど変わりません)。

● 「品質マニュアル」は作るべきか?
それでは、「文書」の代表的なものの一つと考えられる「品質マニュアル」について考えて見ましょう。2008年版までのISO9001規格では明確に「品質マニュアル」を作成することが要求されていましたが、2015年版ではそれが明確に要求されていません。ということは、「品質マニュアル」はもう作成しなくても良いのでしょうか。

今までのISO9001規格では「品質マニュアル」を作成することが明確に要求されていたため、まずは「品質マニュアル」を作ることが目的となってしまい、結果として多くの品質マニュアルが規格の要求事項のコピーのような内容になってしまっていました。これでは、組織の実際の活動(プロセス)が適切に表現されず、また、組織で通常使用されていないようなISO規格の言葉で書かれてしまい、組織としてはほとんど役に立たないものになってしまっているケースも多々見られました。しかし、これは本来ISO9001規格が意図したことではありません。このようなことがあったため、2015年版では「品質マニュアル」という「形」を作ることを要求することをやめたわけです。ですから、「品質マニュアル」という名の文書がなければならない、ということではありませんが、だからといって今まで「品質マニュアル」を持っていた組織がそれを廃止する必要もないでしょう。重要なことは、本来規格が意図していたような「品質マニュアル」を持つ、ということです。

本来意図された「品質マニュアル」は、組織の品質マネジメントシステムの全体像(適用範囲やプロセスの相互関係、それぞれのプロセスの管理の方法等)を示すものであるため、適切に作成されれば非常に有効なもののはずです。従って、すでに「品質マニュアル」を作成している組織は、それがそのような本来意図されたものになっているかを見直し、これから作成する組織は、自分たちの品質マネジメントシステムの全体像をどのように表現したら分かりやすいか、という観点から作成すると良いでしょう(「品質マニュアル」は、あくまで組織が活用するものであり、決して審査機関の審査員のために作るものではありません!)。