【ISO45001】7.3 認識

組織の人に重要なことをきちんと認識させよう

この項目の要求事項を一言で言うと、「組織の人々に必要なことを認識させなさいということです。そして、認識させなければならない事項がa)〜f)に掲げられています。

「認識」とは何か?

それでは、ここでいう「認識(awareness)」とは何を意味するのでしょうか。規格にはこの言葉の定義はありませんので、辞書を引くと以下のように定義されています。

「あることを知っていること、あることが存在していることや重要であることを知っていること、あることに関心を持っていること」(OALD)

上記の辞書の定義から、「認識」とは「知っていること」であることが分かります。7.2のところで、「力量」とは「できること」である、と書きましたが、それとの対比として理解しておくと良いでしょう。

「力量」と「認識」の違い

当然「知っていること」と「それに従って行動すること」とは同じではありませんが、ここで要求されているのはあくまで「認識」=「知っていること」です。つまり、「知らないことには始まらない」のであって、最低限の要求としてこれらを「認識=知っていること」を要求していると理解することができます。ただ、だからといって「それに従って行動すること」を無視しているわけではありません。「認識」とは、上記の辞書の定義にもあるように、単に「知っていること」以上に、「それが重要であることを知っていること」も含まれていると考えれば、本当に深く「認識」していれば、それは行動に表れると考えられます。従って、「それに従って行動されていない」場合には、「認識が十分でない」とも考えられ、より深く認識してもらえるような改善が望まれるでしょう。

「誰に」認識させるのか?

「認識」の意味を確認したところで、それでは誰に対して、何を認識させたら良いのでしょうか。まず、「誰に」ということについては、「働く人」に対して、となっています。「働く人」とは規格では以下のように定義されています。

「組織の管理下で労働する又は労働に関わる活動を行う者」(ISO45001:2018, 3.3)

この「働く人」には、その注記にもあるように経営者や管理職も含まれ(注記2)、また、「労働又は労働に関わる活動」は必ずしも正社員だけでなくパートタイムや季節労働者によって行われる場合もあり(注記1)、「組織の管理下」で行われる活動は必ずしも正社員だけでなく、外部提供者や請負者、派遣労働者などによって行われる場合もある(注記3)ということに注意が必要なことは、先の7.2で述べた通りです。

 

ただ、先の7.2では、同じ「働く人」でも、そこに「組織の労働安全衛生パフォーマンスに影響を与える、又は与え得る」という修飾語がついていましたが、ここでは単に「働く人」となっています。つまり、「認識」させる対象の方が、「力量」を求める対象よりも広い、ということです。具体的には経営者及び従業員、パートタイムや契約社員、必要に応じて請負者なども含む幅広い人々、ということになるでしょう。

「何を」認識させるのか?

そして、「何を」認識させなければならないのか、ということについては、a)~f)で具体的に列挙されています。a)では、労働安全衛生方針と労働安全衛生目標を認識させることが要求されています。これは、労働安全衛生方針や労働安全衛生目標を暗記していなければならない、という意味ではなく、方針や目標の内容や重要性、意義といったことを「知っている」ようにすることです。

 

b)は「労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に対する貢献」、c)は「労働安全衛生マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味とその結果」を認識させることを要求しています。これらは、言い換えれば自分の仕事や行動・活動が労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に対してプラス・マイナスの両面でどのような意味や影響を持っているかということを理解する、ということと言えるでしょう。働く人は、それらを認識した上で、自らの仕事を注意して行う必要があり、またより積極的に安全衛生のレベルを高めるような行動をとることが期待されています。

 

d)は「インシデントとその調査結果」、e)は「危険源、労働安全衛生リスクとそれに対する取組み」を認識させることを要求しています(インシデントの報告や調査・処置に関する仕組みは10.2で要求されています)。実際にどのようなインシデントが発生し、その調査結果はどのようなことを示唆しているか、そして自分たちの作業にどのような危険やリスクが潜んでおり、それに対してどのような対策を講じようとしているか、ということを理解することは、働く人が適切な行動をとり、効果的な労働安全衛生マネジメントシステムを運用する上で必要不可欠な情報です。なお、「インシデント」は、規格では以下のように定義されており、これには事故だけでなく、ヒヤリハットやニアミスも含まれます。

「結果として負傷及び疾病を生じた又は生じ得た、労働に起因する又は労働の過程での出来事」(ISO45001:2018, 3.35)

 

f)では「生命や健康に切迫して重大な危険があると考える状況から自分で逃れることができ、そしてそのような行動をとったことで不当な結果を受けることがないようになっていること」を認識させることを要求しています。実際に切迫した緊急事態が発生した時には何を優先すべきかを瞬時に判断して行動することが求められますが、日頃から個々人の安全よりも組織の利益が優先されるような価値観が優位な組織では、自分の身を守る適切な行動をとることができないでしょう。その意味でこれはISO45001が新たに重視する考え方である「組織の安全衛生文化」にも関連した重要な要求と言えます。

 

「どのように」認識させるのか?

それではこれらのことを「どのように」認識させたら良いのでしょうか。これについては、組織の規模や複雑さによって当然異なりますので規格は特に規定していません。これは次のコミュニケーションとも関連しますが(7.4)、同じ事柄を認識させる場合でも、対象となる人数が少ない小企業では会議や朝礼等の直接的な方法で十分かもしれませんが、対象となる人数が多い大企業では、直接的な方法では限界があるため、その他にホームページやイントラネット、電子メール、社内報、掲示といった様々な方法が必要となるでしょう。従って、そのようなそれぞれの組織の状況を考慮して適切な方法を組織が決め、それは7.4で要求されているコミュニケーションのプロセスに含まれることになるでしょう。

 

なお、この項目では特に「文書化した情報の保持」(記録)は要求されていません。ここで重要なのは「記録」を残すことではなく、必要なことが、必要な人に実際に認識されている、ということであり、また認識されるようにするための仕組みがある、ということです。従って、審査においても、「記録」の確認よりも、実際に必要な人が必要なことを認識しているかを「インタビュー」などによって確認することがより重視されるでしょう。

 

 

 

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