【ISO45001】6.1.2.1 危険源の特定

危険源の特定を徹底して行おう

この項目の要求事項を一言で言うと、「組織は、負傷や疾病の原因となりうる危険源を網羅的に特定しなければならない」ということです。この項目で特定された危険源は、次の6.1.2.2のリスクアセスメントの元となるものであり、組織の労働安全衛生マネジメントシステムの具体的な取組みの出発点になるという意味で、非常に重要な項目です。

「危険源」とは?

この項目は、「危険源」を特定するためのプロセスを確立し、実施・維持することを求めています。ここで、「危険源(hazard)」とは、ISO45001:2018で以下のように定義されています。

「負傷及び疾病を引き起こす可能性のある原因」(3.19)

例えば、机の上に刃物が置いてあった場合、その刃物は危険源となりますが、それを使う人がいなければケガは起こりようがありません。危険源に対して、何らかの行為や状態が作用することで、初めてケガや病気が発生しうる「リスク」が生じる、ということになります(これについては次の6.1.2.2でさらに詳しく説明します)。

自分の経験を振り返ってみても分かるように、「あんなことが原因でケガをするなんて」と思うような、本当に些細なことが原因でケガをするのはよくあることだと思います。そう考えると、むき出しになった刃物や回転体、危険物や有害化学物質の存在のような、「明らかに危険なもの」は分かりやすいですが、ちょっとした段差や突起物といった「思わぬケガ」を引き起こす可能性のある「危険源」を含めて網羅的に洗い出す、というのは必ずしも簡単なことではないということが分かるでしょう(なお、ここでは分かりやすいので「ケガ」と書いていますが、もちろん危険源はケガだけでなく、病気の原因となりうるものも含まれます)。

危険源を特定するプロセス

この項目では、このような「危険源」を特定するプロセスの確立、実施、維持が求められています。そして、「危険源」は状況の変化によっても変わり得るため、それを特定するプロセスは継続的(ongoing)かつ先取り的(proactive)であることが要求されています。先取り的であるということは、現在明らかなものだけでなく、何らかの変更が計画されたり予想されたりしている際に、その変更がされた後ではなく計画段階で関連する危険源を検討する、ということを意味します。

特定された危険源に基づいて、次の6.1.2.2でリスクアセスメントが行われるため、危険源の特定において「抜け」が多くあると、当然ながらリスクアセスメントにも抜けが出てしまいます。従って、労働安全衛生リスクを網羅的に評価するためにも、その元となる危険源を網羅的に特定することが重要です。しかし、上記で見たように、危険源を網羅的に特定することは必ずしも簡単なことではありません。そのため、危険源の特定に当たって考慮に入れるべき事項がa)からh)にわたってかなり詳細に列挙されています。

このように、危険源の特定に際して考慮に入れるべき事項が列挙されていますが、同時に「これらに限定されない」とも書いてあります。それは、ここで列挙された事項だけ考えれば良い、という受身的な考えで危険源の特定が行われ、結果的に危険源の特定に漏れが出てしまうことがないようする必要があるためです。

なお、先の5.4で見たように、この危険源の特定には非管理者が参加することが要求されているため、危険源を特定するプロセスを確立する際には、そこに非管理者が参加できるようにしなければならないことにも注意が必要です。

危険源の特定で注意すべきこととは?

この項目のa)からh)で列挙された事項を考慮する際には、特に以下のようなことに注意すべきでしょう。

  • 単なる物理的な危険源だけでなく、社会的要因や組織文化に関連するものにも注意を払う。(a)
  • 製品・サービスの設計、研究、開発、試験、生産、組立、建設、サービス提供、保守、廃棄から生じる危険源を考慮に入れる。(これは言い換えると、いわゆる製品の「ライフサイクル」に関連した危険源を考慮するとも言えます。ただし、附属書A.6.1.2.1にも書かれているように、この規格は「製品の安全性」(つまり、製品の最終使用者に対する安全性)は対象としていません)(b 2)
  • 組織の内部だけでなく外部で発生した過去のインシデントも考慮に入れる。(c)
  • 請負者や来訪者を含めた職場に出入りする人々はもちろん、影響を受ける可能性のある職場周辺の人々(例 近隣住民、工事現場の周辺の通行人等)や組織が直接管理していない場所にいる働く人(例 外回りをしている営業マン、配送員、運転手、客先で作業を行うサービス員、在宅勤務者等)も考慮に入れる。(e)
  • 職場内の活動が原因で周辺に起こる状況や、逆に職場内の人に影響を与え得る周辺の状況も考慮に入れる。(f 2, 3)
  • 危険源に関する知識・情報の変更を考慮に入れる。(このような知識・情報は、出版物や研究開発の結果、更には働く人からの意見や組織自身の経験の振り返りなどからも入手することができるでしょう(附属書A.6.1.2.1参照))(h)