【ISO45001】まずは「自らを知る」ことから始めよう(2)~「4.2 働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解」

この項目の要求事項を一言で言うと、「働く人及び自分たちの労働安全衛生マネジメントシステムに関連するその他の利害関係者とそのニーズ・期待を決定しなさい」ということです。この項目は、前の4.1と非常に似た性格を持った項目ですので、後述するように、これらの2つは一体として考えると理解しやすいでしょう。

● 「働く人」、「利害関係者」とは誰か?
まずは、「働く人」とは誰かについて見てみましょう。「働く人」は、規格の中で以下のように定義されています。

「組織の管理下で労働する又は労働に関わる活動を行う者」(ISO45001:2018, 3.3)

ここで、この「働く人」がどこまでの範囲を含むのかが問題になりますが、まず注意が必要なのは、いわゆる「労働者」「作業者」だけでなく、「トップマネジメント」や「管理職」も含まれる、ということです(ISO45001:2018, 3.3 注記2)。また、「労働又は労働に関わる活動」は、いわゆる正社員による活動だけでなく、一時的、断続的、季節的、臨時、パートタイム等の活動も含まれ、また有給だけでなく無給による活動も含まれ得ます(ISO45001:2018, 3.3 注記1)。さらに、「組織の管理下で行われる」活動とは、外部提供者や請負者、派遣労働者によって行われていることもあり(ISO45001:2018, 3.3 注記3)、組織が管理している範囲に応じて柔軟に解釈すべきでしょう。このように「働く人」はかなり広い意味を含む言葉であることに注意してください。

次に、「利害関係者」とは誰かを見てみましょう。「利害関係者」とは、規格では「ある決定事項若しくは活動に影響を与え得るか、その影響を受け得るか、又はその影響を受けると認識している、個人又は組織」(ISO45001:2018, 3.2)と定義されています。これは、言い換えると、「組織の労働安全衛生のパフォーマンスに影響を与えたり、又はそこから影響を受けたりする(可能性のある)人や組織」と言えるでしょう。例えば、組織によっては以下のような利害関係者があり得ます(ISO45001:2018, A.4.2参照)。

・ 法務当局や規制当局(政府や地方自治体等)
・ 顧客
・ 親会社
・ 供給者や請負者
・ 働く人の代表や組織(労働組合)
・ 来訪者
・ オーナーや株主
・ 地域社会、近隣住民、一般社会
・ メディア、学界、業界団体、NGO
・ 労働安全衛生機関や労働安全衛生専門家

● 「働く人及びその他の利害関係者のニーズ・期待」とは何か?
次に考えるべきことは、これらの「働く人」や「利害関係者」がどのようなニーズ・期待(言い換えると「要求事項」)を持っているかを明確にすることです。では、このような「関連する利害関係者のニーズ・期待」にはどのようなものがあるのでしょうか。これも4.1の「課題」と同様、組織によって異なるわけですが、例としては以下のようなものが考えられるでしょう。

・ 労働安全衛生に関する法改正が審議されている
・ 顧客や親会社からの安全管理要求が厳しくなっている
・ 従業員からの職場環境改善の要望が大きくなっている
・ 株主が企業の社会的責任をより重視してきている

● 4.14.2の関係は?
本稿の冒頭で、「4.1と4.2は非常に似た性格を持った項目なので、これらの2つは一体として考えると理解しやすい」と書きました。それは、これらの2つの項目が、いずれも「自分たちの組織の置かれた状況を把握するための材料集め」という性格を持っていることを意味します。つまり、4.1の「外部・内部の課題」や4.2の「働く人及びその他の関連する利害関係者のニーズ・期待」について考えることで、自分たちの組織がどのような組織なのか(=「組織の状況」)を明確にすることを目的としているわけです。それでは、なぜそのようなことをする必要があるのでしょうか。それは、このような自らの「状況分析」を行い、その結果を元に後の6.1で規定されているリスク・機会の分析を行うことで、自分たちはどのような「戦略」をとることが重要なのか、という組織の「大きな方向性」を明確にすることがまずは重要であり、そのような「戦略的方向性」を無視して有効な労働安全衛生マネジメントシステムはあり得ないからです(だからこそ、9.3「マネジメントレビュー」で「戦略的な方向性」という言葉が出てきているのです。この言葉はISO45001:2018で初めて出てきた言葉です)。

イラスト

組織状況の把握は戦略的方向性を立てるための材料集め

従って、これら2つ(4.1と4.2)は必ずしも厳密に分けて考える必要はなく、「これは『課題』だろうか、『利害関係者のニーズ・期待』だろうか」ということに囚われるのはあまり意味がありません。実際、上に例として挙げた「利害関係者のニーズ・期待」(例 労働安全衛生に関する法改正が審議されている)は、「外部の課題」とも言えるでしょう。重要なことは、4.1や4.2のような「切り口」で考えることで、自分たちの組織の状況を把握するための重要な「材料」を漏らさず集めることです。

● 「利害関係者のニーズ・期待」の文書化は必要?
最後に、文書化との関係ですが、これも前の4.1と同様、ここで要求されているのは、あくまで関連する利害関係者とそのニーズ・期待を「決定する」ことであり、それらを文書化することは要求されていません。従って、上記のような「利害関係者のニーズ・期待のリスト」のようなものを文書として作成することを必ずしも意図していません(もちろん、それを作成することが役に立つ場合も多々あるとは思いますが)。しかし、これも4.1と同様、9.3の「マネジメントレビュー」で、考慮しなければならない項目に「利害関係者のニーズ及び期待」が含まれており、また「マネジメントレビューの結果の証拠として、文書化した情報を保持」することも要求されていますので、実際の運用ではマネジメントレビューの記録の中で何らかの文書化がされることになるでしょう。