コロナ禍でISO9001をどのように役立てるか?(1)

ナイジェル・H・クロフト寄稿※

 

2020年は世界が変わった年として将来記憶される年となるでしょう。COVID-19は私たちが自分たちの生活をどのように見て、どのように振舞い、ビジネスをどのように行うかを一変させました。このパンデミックが終わったとしても、世界は以前と同じようにはならないでしょう。それは「ニューノーマル(新常態)」と呼ばれる世界です。このような中、ISO 9001:2015に基づく、認証された品質マネジメントシステムは、組織がこの危機をいかに生き抜き、復興し、成功するのに役立つのでしょうか。

 

ISO 9001:2015をよくご存じの方には、いくつかの要求事項が思い浮かぶことでしょう。COVID-19によってもたらされた変化はほとんどの組織の状況や利害関係者のニーズ・期待、そして組織が直面するリスクと機会に劇的な影響を与えています。

 

ISO9001が基づく原則

しかし、ISO 9001を詳細に見る前に、まずISO 9000:2015のいくつかの重要な点を見てみましょう。これは、ISO 9001の基礎としている基本的な原則を構成するものです。

「品質に焦点を当てる組織は、顧客やその他の関連する利害関係者のニーズ及び期待を満たすことを通じて価値を提供するような行動、態度、活動及びプロセスをもたらす文化を促進する」

「組織の製品・サービスの品質は、顧客を満足させる能力と、関連する利害関係者に対する意図した及び意図しない影響によって決まる」

「製品及びサービスの品質には、それらの意図した機能及びパフォーマンスだけでなく、顧客に対するそれらの認識された価値及び便益も含む」

 

例えば、ホームコンピュータに対して優れたITのサポートサービスを提供する組織であっても、その技術者がこのコロナ禍においてマスクを着用しなかったり、ソーシャルディスタンスを取らなかったりしていては、「品質の高いサービス」を提供しているとは言えません。一方で、重症化リスクが高く自宅を離れることができない人々に対して無料の宅配サービスを提供するスーパーマーケットは、それによって将来のロイヤルカスタマーを獲得する機会を得ています。これらは非常にシンプルな例ですが、変化するビジネスの状況が顧客のニーズや期待を変化させていることを示しています。顧客以外の利害関係者のニーズと期待を考慮しなければならない状況もあります。これには、例えば社会のニーズ・期待によって、トイレットペーパーや手指消毒剤といった非常に需要の高い商品を、それらを必要とするすべての人に提供できるように在庫を確保することもあるでしょう。

 

激変する状況に対応する柔軟性と俊敏性を備えた品質マネジメントシステム

激動するこのような時代に組織がしなければならない重要なことは、変化の必要性を認識し、タイムリーに変更を実施することです。品質マネジメントシステムは、体系的かつ迅速にこれを行うのに役立ちます。図1は、私がプレゼンテーションやセミナーで何度も使用してきたスライドですが、この状況に非常に関連性があると思います。

図1 – プロセスによって駆動される品質マネジメントシステム

 

ISO 9001に基づく品質マネジメントシステムは文書ではなくプロセスによって動かされるべきものであり、変化を阻害するものであってはなりません。残念ながら、一部の人にとって、マネジメントシステム規格と聞いてまず頭に浮かぶのは、30年以上も前のISO 9001の初版の特徴であった「何をすべきかを文書化し、その通りに行いなさい」という古い(そして近視眼的な)考え方でしょう。これにより、「ISO 9000」はイノベーションと組織の俊敏性とは相容れないものだ、という考え方が生まれ、「私たちのISOシステムではそれが許されていないので」という言い訳をして変更が行われないことがよくありました。これほど真実からかけ離れているものはありません。

 

マネジメントシステムが適切に実施され、組織によって本当に有効に活用されている場合、それは結果に焦点を当て、体系的で規律がありながら迅速な方法でイノベーションと変更を促進すべきものです。チャールズ・ダーウィンの有名な言葉にあるように、「生き残るのは最強の種ではなく、最も知能の高い種でもない。生き残るのは変化に最も適応できる種である」のです。

 

これは、組織の「持続的な成功」に焦点を当てたガイダンス規格であるISO 9004:2018にも反映されています。そこではこのようなことが言われています。

「組織の成功に影響を与える要因は、長年にわたって継続的に現れては進化し、増加し、または減少し、持続的な成功にはこれらの変化に適応することが必要である。例えば、効率、品質、俊敏性など、以前から考慮されてきた要素に加えて、社会的責任や環境、文化といった要素が含まれ、これらの要因が組織の状況の一部をなす」

 

(次回に続く)

 

※ナイジェル・H・クロフト博士は、J-VACの技術担当非常勤取締役である。2010年から2018年まで、ISO 9001:2015規格とISO 9004:2018規格に対する全体的な責任を持つ ISO/TC176/SC2の議長を務め、現在は全てのISOマネジメントシステム規格の基礎となる「附属書SL」の改定に関するISOタスクフォースの議長である。