「リスク」とは何か?(1)
ISOマネジメントシステム規格の世界では、ISO9001とISO14001の2015年の改定を前に、にわかに「リスク」という考え方が話題になっています。そこで、「リスクとは何か」についての私見をまとめてみました。
リスクについては、いろいろな人がいろいろな言葉を残しています。まずそのいくつかを見てみましょう。
「人生の初期において、最大の危険はリスクをとらないことである」(ゼーレン・キルケゴール)
「リスクを選ぶ勇気が無い者は、人生において何も達成することが出来ない」(モハメド・アリ)
「リスクを皆無にすることは不毛である。最小にすることも疑問である。得るべき成果と比較して冒すべきリスクというものが必ずある。戦略計画に成功するということは、より大きなリスクを負担できるようにすることである。より大きなリスクを負担できるようにすることこそ、企業家としての成果を向上させる唯一の方法だからである」(ピーター・ドラッカー)
いずれも、「リスク」というものは、将来の成功や自分が望む結果を達成するために不可欠な要素と捉えているようです。
では、「リスク」という言葉はもともとどんな意味なのか、その語源を見てみましょう。
ピーター・バーンスタインはその名もズバリ『リスク』という著書の中で「リスク」の言葉の由来を以下のように紹介しています。
「リスク(risk)」という言葉は、イタリア語のriscareという言葉に由来する。この言葉は「勇気を持って試みる」という意味を持っている。この観点からすると、リスクは運命というよりは選択を意味している。
「リスク」とは「勇気を持って試みる」こと。何ともかっこいいですね。
私たちが「リスクをとる」という時、将来生じるかもしれない損失や危険を承知しながら、あえてその選択をすることでそこから得られる利益を得ようとすることと言えます。ここでポイントとなるのは、「将来の不確実さ」をどう考えるか、ということ。様々な自然現象や社会現象に関する知識が乏しかった大昔では「摩訶不思議なこと」としか映らなかった事象も、現代の我々にとっては理論的に説明することができるものが多々あります。そしてそのように理論的に説明可能で予測可能になった現代だからこそ、以前には迷信的に避けられてきたことも、現在では理性をもって挑戦することができ、それによって人類の文明も大きな進歩を遂げてきたと言えるのでしょう。
先ほどのピーター・バーンスタインは、何千年もの歴史と今日われわれが生きている現代とを区別する画期的なアイデアこそがリスクの考え方である、と言い、更にこう言っています。
「今日では、われわれは昔の人間のように迷信や伝統を信じようとはしない。それは、われわれが昔の人々より合理的になったからではなく、われわれがリスクを理解することでより合理的に意思決定できるようになったからである」
このように考えると、リスクを冷静に判断し、それに適切に対処することは、成功と発展のために不可欠な要素と言えるでしょう。
(次回に続く)