【ISO9001】 8.1 運用の計画及び管理
運用のプロセスを計画し、管理しよう
この項目の要求事項を一言で言うと、「運用のプロセスを適切に計画し、管理しなさい」ということです。8章はPDCAの「D」に当たる部分で、この8.1はその全体に関する概要的な位置づけの項目となっています。
「運用プロセス」とは?
まず、ここで言う「運用プロセス」とは何かをおさらいしましょう。「4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス(2)~自分たちのシステムにどのようなプロセスがあるのかを明らかにしよう」のところで説明したように、これは「製品・サービスを提供することに直接関連するプロセス」と言うことができます。プロセスの3つの分類(「マネジメントプロセス」「支援プロセス」「運用プロセス」)を「演劇の舞台」でたとえたのも思い出してください。
ISO9001の品質マネジメントシステムでは、この「運用プロセス」として、この項目に続く8.2から8.7で具体的に以下のようなものを挙げています。
・ 「製品・サービスの要求事項」の明確化に関わるプロセス(8.2)
・「製品・サービスの設計・開発」に関わるプロセス(8.3)
・「外部から提供された製品及びサービスの管理」に関わるプロセス(8.4)
・「製造・サービス提供」に関わるプロセス(8.5)
・「製品・サービスのリリース」に関わるプロセス(8.6)
・「不適合のアウトプットの管理」に関わるプロセス(8.7)
つまり、ここでは顧客からの要求を受けて製品・サービスを顧客に提供する(更には提供後のサービスを実施する)までの様々なプロセスの全体を扱っており、その意味で製品・サービスの適合性や顧客満足に直結するプロセスと言えます。また、リスクや機会への対応(6.1)や目標(6.2)といったところで計画された取り組みはこれらの運用プロセスを通じて実施に移されますので、「計画倒れ」に終わらないようにするためにも、これらのプロセスをきちんと計画し、管理することが重要なのです。
「運用プロセス」の計画をいつ行うか?
それでは、この「運用プロセス」の計画はいつ行うべきものなのでしょうか。「運用プロセス」が上に書いたような8.2から8.7に示されたようなプロセスであるとすると、これから品質マネジメントシステムを構築しようとする組織ならまだしも、既に品質マネジメントシステムを構築し、運用している組織であれば既に計画を終わっていると思われるでしょう。そしてそうだとすると、既に品質マネジメントシステムを構築し運用している組織にとっては、この項目に対して新たに実施することはないと考えられる人もいるかもしれません。
確かに組織の「現在の」製品・サービスや顧客に対する基本的な運用プロセスは、今運用している品質マネジメントシステムを構築した段階で計画を終わっているかもしれません。しかし、組織の製品・サービスや顧客がまったく変化しないという組織はないでしょう。これは自社で新製品を開発する組織であればもちろんですが、それに限らず、例えば既存顧客から新しい仕事を委託され、そのために工程を見直したり新しい工程を追加したり、という場合にも当てはまるでしょうし、従来の製品・サービスを新しい顧客に提供するにあたってプロセスを見直し変更する、という場合にも当てはまるでしょう。また、建設業やソフトウェア開発業のように、案件ごとの個別性が高いプロジェクト型の組織では、個々の案件ごとに計画(施工計画、プロジェクト計画等)を立てられるでしょう。この項目でいう「運用プロセス」の計画は、これらの場面で立案されることになるでしょう。
「運用プロセス」の計画・管理で何を行うか?
それでは、「運用プロセス」の計画・管理において、何を行うことが求められているのでしょうか。この項目では以下のことが要求されています。
- 製品・サービスに関する要求事項の明確化
- プロセスに関する基準、製品・サービスの合否判定の基準の設定
- 必要な資源の明確化
- 基準に従ったプロセスの管理の実施
- 必要な程度の文書化した情報の明確化、維持・保持
そして、ここでの計画は組織の運用に適した形でアウトプットされる必要があります。具体的には、製造業におけるQC工程表やコントロールプラン、各種の手順書や基準書、建設業における施工計画といったものが代表的な例として挙げられるでしょう。
変更の管理とアウトソースの管理
また、計画された「運用プロセス」が常にその通りに運用できるとは限りません。場合によっては、何らかの状況に対応するためにこれらのプロセスを「計画的に」変更する場合もあるでしょうし、意図しない変更をせざるを得ない場合もあるでしょう。そのような場合、そのような変更によって有害な影響が発生したり、悪化しないようにしたりするための処置をとる必要があります。ISOのマネジメントシステムは、「決められたことを決められた通りに実施する」硬直的なシステムを求めていると思われがちですが、ここで見られるように、決してそのような硬直的なシステムを求めているわけではありません。ただ、何らかの変更を行った場合に問題が発生することが多いことから、変更すべきときには、その変更が悪い影響を与えることのないように「管理された状態で」行われることが要求されているのです。
アウトソースの管理
さらに、外部委託(アウトソース)したプロセスに対する管理もここで言及されています。「外部委託する(アウトソース)」は、以下のように定義されています。
「ある組織の機能又はプロセスの一部を外部の組織が実施するという取決めを行う」(ISO9000:2015, 3.4.6)
但し、ここではこのような外部委託(アウトソース)したプロセスも管理しなさい、という一般論を言っているだけで、詳細な要求事項は8.4で規定されていますので、具体的にはそちらの要求事項に従って管理を行うことになります。
さらに、この定義の注記では以下のようなことも書かれています。
「外部委託した機能又はプロセスはマネジメントシステムの適用範囲内にあるが、外部の組織はマネジメントシステムの適用範囲の外にある」
これは、外部委託した「プロセス」は品質マネジメントシステムの管理の範囲に含まれるが、外部委託したプロセスを実施する「組織」(外注先)は、自分たちの品質マネジメントシステムの適用範囲には含まれない、ということです。言い換えれば、自分たちとは別の組織である外注先自体は自分たちの品質マネジメントシステムに含まれないが、だからと言って「外部委託しているから自分たちとは関係ない」として丸投げすることは許されず、外部委託したプロセスが要求事項に適合することに対する責任は組織が持っている、ということです。これも、外部委託関係が複雑化する昨今、品質に限らず多くの問題が外部委託先の管理の不十分さに起因することが多いことを考えれば非常に重要な要求だと言えるでしょう。