【ISO9001】5.1 リーダーシップ及びコミットメント(1)

品質マネジメントシステムはトップが引っ張る!

この項目の要求事項を一言で言うと、「トップマネジメントは、品質マネジメントシステムを有効に機能させるために、自ら率先して組織を引っ張っていかなければならない」ということです。この項目は、更に前半(5.1.1)の「一般」と後半(5.1.2)の「顧客重視」に分かれていますが、5.1.1は文字通り一般論としてトップマネジメントがすべきことが示され、5.1.2はその中でも特に「顧客重視」ということに関してトップマネジメントがすべきことが列挙されています。

「リーダーシップ」と「コミットメント」?

ここでは、トップマネジメントに「リーダーシップ」と「コミットメント」を実証することが求められています。それでは、「リーダーシップ」と「コミットメント」とは具体的にどういうことを意味するのでしょうか。用語の定義を規定したISO9000:2015では、このどちらの言葉の定義も規定していません。そこで、これらの言葉を辞書(ここでは”Oxford Advanced Learner’s Dictionary”(OALD)を使います)で調べると、以下のような意味が書かれています。

  • 「リーダーシップ(leadership)」:「リーダーであるための能力、又は良いリーダーが持つべき特質」
  • 「コミットメント(commitment)」:「①あることを行うことや特定の仕方でふるまうことを約束すること、②自分のエネルギーと時間をある仕事や活動に喜んで使うこと」

「リーダーシップ」は日本語としてもよく使われる言葉なので、感覚的にも分かりますが、「コミットメント」はあまり聞きなれない言葉なので、理解しにくいかもしれません。「コミットメント」には上に見るように主に2つの意味(①と②)がありますが、この項目では、実証すべきものとして「コミットメント」が要求されていますので、どちらかというと②のような意味と考えられると思います(ちなみに、後の5.2「方針」に出てくる「コミットメント」は①の意味として使われています)。要するに、トップマネジメントは、品質マネジメントシステムを有効に運用すること(5.1.1)、そして顧客重視という考え方に基づいて組織を運営すること(5.1.2)を実現すべく、この項目で挙げられたことを通じて、自らのリーダーとしての指導力と積極的な関わり(献身)を示してください、と言っているわけです。

品質マネジメントシステムに関するリーダーシップとコミットメントの実証

では、「品質マネジメントシステムに関するリーダーシップとコミットメント」を実証するために、5.1.1では具体的に何が要求されているのでしょうか。ここにはa)~j)の10個事項が挙げられています(下図参照)。

イラスト

これらを読んで「具体的にはどうすれば良いの?」という疑問を感じられる人も多いのではないでしょうか。ここに列挙された項目を見ると、b)やe)といった何をすれば良いのか比較的具体的に分かりやすい項目もありますが、その他の多くが非常に抽象的であいまいな表現になっていると思われるでしょう。これは、この規格に基づいて審査を行う審査員にとっても同じで、このような要求事項を適切に審査するのは簡単なことではありません。

「ハードな」要求事項と「ソフトな」要求事項

先の「コラム3」でもお話ししたように、ISO9001規格は、その歴史を通じて「ハードな」要求事項中心の規格から、より「ソフトな」要求事項中心の規格へと変遷してきましたが(「ISO9001誌上講義 『ハードな』要求事項から『ソフトな』要求事項へ ~コラム3:ISO9001規格の性質の変遷」の回を参照)、この項目で規定されているこれらの要求事項は、ここで言う「ソフトな」要求事項の典型例ということができるでしょう。従って、運用に当たって「具体的にどうしたら良いの?」という疑問をもたれるのは当然のことです。

ここで、これらの「ソフトな」要求事項に対して「ハードで」対応しようとするのはあまり適切とは思われませんし、規格もそのような対応をすることを意図してはいません。例えば、品質マニュアルに「トップは品質マネジメントシステムの有効性に対する説明責任を持つ」と書いたからといって、トップが説明責任を持っていることにはなりません(書くのが悪い、というわけではなく、書いただけで対応した気になってはいけない、ということです)。重要なことは、ここで言われていることの意図が「実際に」システムを運用した結果として実現されている、ということです。従って、審査においても、「品質マネジメントシステムの有効性に対して説明責任を持っていますか?」というような形でこれらの項目を直接トップマネジメントに質問することに意味はありません(この質問に対して「持っていません」と答える人はまずいないでしょうから)。審査においても、これらの項目は一対一対応で文書や記録といった「ハードな」証拠を見ていくような性質のものではなく、全体の審査を終えて振り返ったとき、ここで要求されているようなことが実現されていると審査員が確信を持つことができるか、という視点から検証することになるでしょう。

(次回に続く)