【ISO45001】8.2 緊急事態への準備及び対応(1)
緊急事態に備え、対応しよう
この項目の要求事項を一言で言うと、「労働安全衛生に関する緊急事態に対する準備をし、それが発生したら適切に対応できるようにしなさい」ということです。緊急事態への対応が適切に行われないことで、労働安全衛生上の被害が拡大してしまうことが多々ありますので、想定される緊急事態に対して予防的な準備を行うとともに、発生した際にはその被害が拡大しないように適切に対応できるようにすることが非常に重要です。
「緊急事態」とは
この項目では、6.1.2.1で特定された緊急事態に対する準備と対応が要求されています。「緊急事態(emergency)」は規格では定義されていませんが、辞書では以下のように定義されています。
「対処のために即時の処置が必要な、突然の重大で危険な事象や状況」(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)
それではこのような緊急事態にはどのようなものがあり得るのでしょうか。まず頭に浮かぶのは「事故」でしょう。「事故」は規格では以下のように定義されています。
「負傷及び疾病が生じたインシデント」(ISO45001:2018, 3.35 注記1)
つまり「事故」は「インシデント」の一形態です。事故が起きれば通常はそれに対して即座に対応しなければならない状況が発生すると考えられますから、事故は緊急事態につながる、と考えてよいでしょう。それでは「インシデント」はどのような意味でしょうか。規格では以下のように定義しています。
「結果として負傷及び疾病を生じた又は生じ得た、労働に起因する又は労働の過程での出来事」(ISO45001:2018, 3.35)
ここにあるように、「インシデント」には、実際に負傷や疾病には至らなかったものも含まれており、それらは一般的には「ニアミス」や「ヒヤリハット」などと呼ばれることがあります(ISO45001:2018, 3.35注記2)。なお、あるインシデントは一つ又は複数の不適合の存在によって発生することがあり得るが、不適合が存在しない場合でも発生することがあり得る、ということも言われています(ISO45001:2018, 3.35 注記3)。
また、ISO45001:2018の附属書A.8.2では、緊急事態への準備の計画は、「自然の、技術的な及び人為的な事象」を含み得ると言われており、附属書A.6.1.2では、緊急事態の特定に当たって以下のようなことを考慮することが推奨されています。
- 直ちに対応が必要な予想外又は予定外の状況(例 職場における機械の発火、職場の近隣や働く人が労働関連の活動を行っている別の場所における自然災害)
- 働く人が労働関連の活動を行っている場所での暴動といった働く人の緊急避難が必要な状況も含まれる
これらのことから、「事故」「インシデント」「不適合」といった関連する用語と「緊急事態」との関係について、以下のようなことが言えるでしょう。
- 事故はインシデントの一形態
- 事故は緊急事態につながる
- 緊急事態は事故だけから生じるわけではない(自然災害、パンデミック、暴動など)
- 不適合であっても必ずしもインシデントや事故にはならない(例 手順の不順守)
- インシデントや事故であっても不適合が原因とは限らない(例 想定以上の規模の自然災害)
そしてこれを図で表すと以下のようになると思われます。
(次回に続く)