【ISO14001】4.4 環境マネジメントシステム(1)
自分たちのシステムにどのようなプロセスがあるのかを明らかにしよう
この項目の要求事項を一言で言うと、「自分たちの環境マネジメントシステムがどのようなプロセスから構成されているのかを明確にしなさい」ということです。ISO14001:2015では、ISO9001:2015のように明確に「プロセスアプローチ」という言葉は使われているわけではありませんが、今回初めて「プロセス」という言葉が使われ、環境マネジメントシステムはプロセスから構成される、ということをここではっきり言っていますので、実質的には「プロセスアプローチ」の考え方が採用されている、と考えて良いでしょう。ただ、この「プロセスアプローチ」という言葉はよく耳にする言葉だと思いますが、なかなか分かりにくい言葉ですね。
「プロセスアプローチ」とは
「プロセスアプローチ」とは、マネジメントシステムに対して「プロセス」の視点から「アプローチ」する(取り組む)、ということです。では、「プロセス」とは何でしょうか。「プロセス(process)」を英和辞典で調べると「過程、工程、方法、手順」といった訳語が出てきますが、ISO14001:2015では特別に以下のような定義しています。
「インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動」(3.3.5)
あるプロセスへの「インプット」は通常、他のプロセスからの「アウトプット」であり、このような形で複数のプロセスが相互につながりを持っています。
つまり、「マネジメントシステムをプロセスの視点から捉える」とは、「マネジメントシステムをプロセスという構成要素のつながりとして捉える」ということになります(ちなみに「システム」という言葉は、ISO9000:2015では「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」(3.5.1)と定義されており、ここで言う「要素」が「プロセス」ということになります)。これをイメージ図として表すと以下のようになるでしょう。
「プロセス」をどのように明確化するか
従って、ここではまず、「自分たちの環境マネジメントシステムはどのようなプロセスから構成されているのか」を考えることが重要です。では、それらのプロセスはどのように明確にしたら良いのでしょうか。これを考える際には、後に出てくる5.1で言及されている「事業プロセスへの統合」という視点を合わせて考える必要があります(「事業プロセス」とは、ここでは「自分たちの組織の本来の事業活動を構成するプロセス」、と考えれば良いでしょう)。以下にいくつかの業種で典型的に考えられる固有の「事業プロセス」の例を挙げました(ただし、これらはあくまで例であって、必ずしもこれらが事業プロセスの全てというわけではなく、またこのような区分けでプロセスを規定しなければならないというわけでもありません)。
<受託加工業>
- 受注プロセス(顧客からの要求を仕様書や図面等によって確認して受注するプロセス)
- 生産準備プロセス(新規受注品を加工するために必要な設備や工程等の準備を行うプロセス)
- 購買プロセス(必要な材料等を外部から調達するプロセス)
- 製造プロセス(仕様に従って加工するプロセス)
- 検査・出荷プロセス(必要な検査を行い、顧客に引き渡すプロセス)
- 緊急事態対応プロセス(製造現場で緊急事態が発生したときに対応するプロセス)
<建設業>
- 契約プロセス(発注者の要求事項を確認し、積算・見積りを行い、契約を締結するプロセス)
- 設計プロセス(構造物の具体的な仕様を構造計算や図面作成等によって明確にするプロセス)
- 施工計画プロセス(構造物を施工するための体制や工程等を計画するプロセス)
- 施工プロセス(施工計画や仕様に従って施工を行うプロセス)
- 外注先管理プロセス(適切な外注先を選定し、仕事を委託し、監視するプロセス)
- 引渡しプロセス(構造物に対する必要な検査を行い、発注者に引き渡すプロセス)
- 緊急事態対応プロセス(工事現場で緊急事態が発生したときに対応するプロセス)
「プロセス」の分類
組織の環境マネジメントシステムには様々なプロセスがありますが、これらのプロセスは「マネジメントプロセス」「運用プロセス」「支援プロセス」に分類することができます(ISO14001:2015規格でも7は「支援プロセス」について、8は「運用プロセス」について規定しており、このような考え方を踏襲していると言えます)。ここではそれぞれ以下のような意味として想定しています。
- マネジメントプロセス: マネジメントシステムを全体として統合するようなプロセス(例 戦略策定プロセス、目標計画策定プロセス、監視・測定・分析・評価プロセス、内部監査プロセス、マネジメントレビュープロセス、改善プロセス等)
- 運用プロセス: 製品・サービスの提供やそれに関連する環境の管理に直接関連するプロセス(例 受注プロセス、設計プロセス、購買プロセス、製造プロセス、排水処理プロセス、廃棄物管理プロセス、緊急事態対応プロセス等)
- 支援プロセス: 運用プロセスの効果的な実施を支援するプロセス(例 教育訓練プロセス、設備管理プロセス、コミュニケーションプロセス、文書管理プロセス等)
このプロセスの分類を「演劇の舞台」でたとえると、「運用プロセス」は舞台上で観客の前で演じている役者、「支援プロセス」は観客からは見えない大道具や照明、音響などの裏方さん、そして「マネジメントプロセス」は演劇全体を方向付ける監督ということになるでしょう。これらがそれぞれうまく機能したときに素晴らしい舞台ができるように、マネジメントシステムがうまく機能する上でもこれらのプロセスがそれぞれ有効に機能し合うことが必要なわけです(下図参照)。
プロセスをこのような分類で捉えた場合、業種や組織によって最も異なるのは「運用プロセス」であり、その他の「マネジメントプロセス」や「支援プロセス」ある程度共通的なものと考えられるため、上記の組織固有の「事業プロセス」を考える場合は、特にその「運用プロセス」に注目することが重要でしょう。
(次回に続く)