【ISO9001】4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

まずは「自らを知る」ことから始めよう(2)

この項目の要求事項を一言で言うと、「自分たちの品質マネジメントシステムに関連する利害関係者とそのニーズ・期待を決定しなさい」ということです。この項目は、前の4.1と非常に似た性格を持った項目ですので、後述するように、これらの2つは一体として考えると理解しやすいでしょう。

「利害関係者」とは何か?

まずは、「利害関係者」とは何かを見てみましょう。「利害関係者」とは、規格では「ある決定事項若しくは活動に影響を与え得るか、その影響を受け得るか、又はその影響を受けると認識している、個人又は組織」(ISO9000:2015, 3.2.3)と定義されています。これは、言い変えると、「組織のパフォーマンスに影響を与えたり、又はそこから影響を受けたりする(可能性のある)人や組織」と言えるでしょう。製品・サービスを提供する相手である「顧客」(直接の顧客だけでなく、エンドユーザーも含む)が品質マネジメントシステムにとっての主要な利害関係者であることはもちろんですが、その他にも組織のオーナー(株主)、従業員、購買先や外部委託先、パートナー、銀行、規制当局、地域社会なども考えられますので、それぞれの組織で広い視野でどのようなところがあるかを検討しましょう。例えば、歯科医院であれば、患者さんはもちろんですが、患者さんの家族、医院のスタッフ、地域社会、保育園、幼稚園、学校、病院、技工所、更には健康保険組合、歯科医師会といったものが考えられるでしょうし、建設会社であれば、発注者や元請会社はもちろん、社員、外注業者、国交省や地方自治体の建設管理局、労働基準監督署や労働基準協会、建設組合などが考えられるでしょう。

「利害関係者のニーズ・期待」とは何か?

次に考えるべきことは、これらの「利害関係者」がどのようなニーズ・期待(言い換えると「要求事項」)を持っているかを明確にすることです。品質マネジメントシステムでは、「顧客」のニーズ・期待を考えることは今までも当然のことでしたが、ISO9001:2015からは、新たに「顧客」だけでなく、その他の関連する利害関係者のニーズ・期待も考慮すべきことがここではっきり言われています。これはなぜかというと、直接のお客様のニーズだけに対応していても、業界団体や規制当局のニーズ・期待(これは行動規範や法規制という形になって現れるでしょう)に違反してしまったり、協力会社やパートナーのニーズ・期待に対応しないことでそれらからの協力を得られなくなってしまったりすることで、場合によっては製品・サービスの提供ができなくなってしまうことがあり得るように、組織の製品・サービスの「品質」を考える際には、顧客だけでなくその他の利害関係者のニーズ・期待も考えることが重要だからです。

では、このような「関連する利害関係者のニーズ・期待」にはどのようなものがあるのでしょうか。これも4.1の「課題」と同様、組織によって異なるわけですが、例としては以下のようなものが考えられるでしょう。
・ 顧客からの更なるコストダウン・短納期要求がある
・ 顧客が生産拠点の海外移転を進め、現地調達の要望がある
・ 販売会社からの技術的な支援の要望がある
・ 業界規制が厳しくなってきている

4.1と4.2の関係は?

本稿の冒頭で、「4.1と4.2は非常に似た性格を持った項目なので、これらの2つは一体として考えると理解しやすい」と書きました。それは、これらの2つの項目が、いずれも「自分たちの組織の置かれた状況を把握するための材料集め」という性格を持っていることを意味します。つまり、4.1の「外部・内部の課題」や4.2の「関連する利害関係者のニーズ・期待」について考えることで、自分たちの組織がどのような組織なのか(=「組織の状況」)を明確にすることを目的としているわけです。それでは、なぜそのようなことをする必要があるのでしょうか。それは、このような自らの「状況分析」を行い、その結果を元に後の6.1で規定されているリスク・機会の分析を行うことで、自分たちはどのような「戦略」をとることが重要なのか、という組織の「大きな方向性」を明確にすることがまずは重要であり、そのような「戦略的方向性」を無視して有効な品質マネジメントシステムはあり得ないからです(だからこそ、5.2.1「品質方針の確立」や9.3.1「(マネジメントレビュー)一般」で「戦略的な方向性」という言葉が出てきているのです。この言葉はISO9001:2015で初めて出てきた言葉です)。

イラスト

組織状況の把握は戦略的方向性を立てるための材料集め

従って、これら2つ(4.1と4.2)は必ずしも厳密に分けて考える必要はなく、「これは『課題』だろうか、『利害関係者のニーズ・期待』だろうか」ということに囚われるのはあまり意味がありません。実際、上に例として挙げた「利害関係者のニーズ・期待」(例 顧客からの更なるコストダウン・短納期要求がある)は、「外部の課題」とも言えるでしょう。重要なことは、4.1や4.2のような「切り口」で考えることで、自分たちの組織の状況を把握するための重要な「材料」を漏らさず集めることです。

「利害関係者のニーズ・期待」の文書化は必要?

最後に、文書化との関係ですが、これも前の4.1と同様、ここで要求されているのは、あくまで関連する利害関係者とそのニーズ・期待を「決定する」ことであり、それらを文書化することは要求されていません。従って、上記のような「利害関係者のニーズ・期待のリスト」のようなものを文書として作成することを必ずしも意図していません(もちろん、それを作成することが役に立つ場合も多々あるとは思いますが)。しかし、これも4.1と同様、9.3の「マネジメントレビュー」で、考慮しなければならない項目に「顧客満足及び関連する利害関係者からのフィードバックの傾向」が含まれており、また「マネジメントレビューの結果の証拠として、文書化した情報を保持」することも要求されていますので、実際の運用ではマネジメントレビューの記録の中で何らかの文書化がされることになるでしょう。