【ISO9001】4.1 組織及びその状況の理解

まずは「自らを知る」ことから始めよう(1)

この項目は、ISO9001:2015規格の冒頭を飾る要求事項です。この項目の要求事項を一言で言うと、「組織の外部・内部の課題を決定しなさい」ということです。ただ、いきなりそんなことを言われても、何をして良いのか分かりませんね。そこで、まずはここで言う「課題」とはどういうことなのかを考えてみましょう。

「課題」とは何か?

この「課題」という言葉の元の言葉は、英語の”issue”という言葉です。ただ、「課題」という言葉からは「現状とあるべき姿とのギャップ」や「解決すべき問題」というようなマイナスの意味を思い浮かべてしまうと思いますが、ここで言っているのは必ずしもこのようなマイナスの意味ではなく、「マネジメントシステムが意図する結果を達成する組織の能力に(プラスかマイナスかは分からないが)何らかの影響を与える可能性がある『トピック』や『要因』」という意味と考えるべきでしょう(これは、本項の注記1に「課題には、検討の対象となる、好ましい要因又は状態、及び好ましくない要因又は状態が含まれ得る」とあることからも明らかです)。そして、このような意味での「課題」には、組織を取り巻く「外部」的なものと、組織に内在する「内部」的なものがある、と言っているわけです。

組織はこのような意味での「課題」を明確にすることが要求されているわけですが、かといって組織にとっての「全ての」課題を明確にすることまでは要求していません(そもそもそんなことは無理でしょう)。ISO9001:2015規格はあくまで品質マネジメントシステムに関する要求事項を規定したものですので、当然ながら組織の「品質マネジメントシステム」に関連する範囲で「課題」を明確にすることが期待されています。言い換えると、組織が効果的な「品質マネジメントシステム」を運用していくのに(プラスかマイナスかは分からないが)何らかの影響を与えるような課題を明確にすることが要求されていると考えれば良いでしょう。

では、具体的にこのような「課題」にはどのようなものがあるのでしょうか。それはもちろん組織によって異なるわけですが、例としては以下のようなものが考えられるでしょう。

<外部>
・ 円安(円高)が進行している
・ 少子化・高齢化が進んでいる
・ 人口減少が進んでいる
・ 異常気象が増加している
・ 労働時間に関する規制が厳しくなってきている
・ AI, ドローン等の新しい技術が開発されている
・ 規制緩和により競合他社の参入が進んでいる

<内部>
・ 従業員の高齢化が進んでいる
・ 外国人労働者の比率が増加している
・ 設備が老朽化している
・ 新人の定着率が悪化している

「課題」をどのように決定するか?

ここでは単に、これらの「外部・内部の課題」を決定することが求められているだけで、それをどのように決定するかは組織に任せられています。しかし、その際にはできるだけ重要なものが漏れないように網羅的に行われることが期待されるでしょう。そのための唯一最良の方法というものはなく、それぞれの組織が、従来の組織運営で活用してきた様々な情報源を使って情報を入手することになると思われますが、その際できるだけ網羅的な検討を可能にするために参考になる考え方の例として「PEST(LE)分析」が挙げられます(これは特に外部の課題を分析する際に活用できる手法です)。「PEST」とは、「政治的=political」、「経済的=economical」、「社会的=social」、「技術的=technological」を意味し、これに「法的=legal」、「環境的=environmental」を加えて「PESTLE」と呼ぶこともあります。このようなフレームワークを使って、より網羅的に組織を取り巻く外部課題を洗い出すことに役立てることもできるでしょう。

<PESTLE分析使用例>

政治的=political 規制緩和により競合他社の参入が進んでいる
経済的=economical 円安(円高)が進行している
社会的=social 少子化・高齢化が進んでいる人口減少が進んでいる
技術的=technological AI, ドローン等の新しい技術が開発されている
法的=legal 労働時間に関する規制が厳しくなってきている
環境的=environmental 異常気象が増加している

「課題」の文書化は必要?

最後に、文書化との関係ですが、ここで要求されているのは、あくまで外部・内部の課題を「決定する」ことであり、それらを文書化することは要求されていません。従って、上記のような「課題のリスト」のようなものを文書として作成することを必ずしも意図していません(もちろん、それを作成することが役に立つ場合も多々あるとは思いますが)。しかし、9.3の「マネジメントレビュー」では、そこで考慮しなければならない項目に「品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題の変化」が含まれており、また「マネジメントレビューの結果の証拠として、文書化した情報を保持」することも要求されていますので、実際の運用ではマネジメントレビューの記録の中で文書化されることになるでしょう。