【2015年改定のポイント】(6)組織の知識
2015年改定ポイント解説の6回目は「組織の知識」です。これはISO9001固有の変更点ですが、ISO9001の今回の改定で導入されたまったく新しい要求事項です。
ISO9001固有の変更点ではこの「組織の知識」(7.1.6)が最も大きなものの1つといえるでしょう。これは今回の改定で新たに追加された要求事項ですが、この要求事項が含められた意図は、組織の固有技術の伝承や更新に問題があり、それが原因で重要な技術的な知識が不足した結果、品質問題が発生しているケースが少なからずあるため、組織の固有技術的な知識も品質マネジメントシステムの中で確実に管理することにあります。
ただ、「知識」と言ってもそれが具体的にどのようなものまで含まれるのか、というと必ずしも明確ではなく、そこがこの要求事項の分かりにくい点でもあります(「知識」といってもあまりに広くてあいまいなため、どのような知識までを対象にして管理したらいいか分かりにくいですね)。これに対して、規格では、まず「プロセスの運用と製品・サービスの適合のために必要な」知識、と言い、そして注記の中で、「組織固有のもので経験から得られるもの」ということが言われています。ここから考えると、「知識」としては例えば以下のようなものがありうるでしょう。
- 組織の業種固有の技術的・専門的な知識
- 過去の成功や失敗事例から得られた教訓
- 個々人が経験的に持っている「ワザ」や「コツ」など
注意すべきなのは、ここで言う「知識」には、いわゆる「形式知」といわれるような文書化された知識だけでなく、文書化されない「暗黙知」も含まれるという点です(むしろ、その方が多いかもしれません)。だとすると、次の問題は、そのような「暗黙知」を含めた「知識」をどのように「管理」するのか、ということでしょう。
ここで重要なのは、これらの「知識」を「プロセスの効果的な運用」や「適合した製品・サービスの提供」という目的のために活用できるようにすることです。つまり、事業を継続していく中で、いつのまにか必要な「知識」が失われてしまって適切な品質を維持できなくなったり、新たに必要な「知識」が不足して問題が発生してしまったりすることがないように、必要な程度「知識」を伝承・獲得していく仕組みを構築することが重要です。例えば、熟練者による教育や技能の認定制度、過去の失敗事例のデータベース化による活用、新規事業計画時での情報収集や調査といったことが例として考えられるでしょうが、これらに限られることではなく、組織の状況に応じて柔軟に考えることが重要です。
ここまで読んで、これは「力量」の要求と重なると思われる方もいらっしゃるでしょう。実際、ある仕事に必要な「力量」を得るためには、それに必要な「知識」を得ることが含まれるでしょうし、その意味で両者は実際の仕組みの上では重なる部分も多くあると思います。また、「過去の失敗からの教訓」という意味で考えると「是正処置」と重なる部分もあるでしょう。「是正処置」はある特定の不適合が再発することを防止するための処置ですが、「是正処置」も言いかえればその不適合の経験からの教訓を活かすことと言えますので、当然関係してきます。このように、ある仕組みが規格の複数の要求事項に同時に関係している、ということはよくあることですので、規格要求に一つずつ個別に応えようとするのではなく、自分たちの今あるシステムを出発点として、規格要求にどのように対応しているのかを考えると良いでしょう(これが「事業プロセスとの統合」でもあります)。
<考え方のポイント>
自分たちのシステムは、過去の経験からの教訓や、ベテランが持つワザやノウハウなどが継承され、将来にわたって活用できるようになっているか?