自然災害の増加に伴うリスクと機会 ~ISO14001:2015の視点から

「気候変動の影響への適応計画」が2015年11月27日に閣議決定されました。これは、これまで環境省、農林水産省、国土交通省などによって独自に作られていた適応計画をまとめ、政府として今後10年間にわたる適応の方針や重点対策を示したものです。

従来の気候変動への対策は、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和」が主でしたが、ここで言う「適応」は、既に起こりつつある気候変動に対して、適切な対策をすることで被害を回避・最小化する取り組みを意味します。

ここでは、基本戦略として「政府施策への適応の組み込み」が第一に挙げられ、関係各省がこの計画に基づいて取り組みが進められるほか、分野別の影響と対策も示されています。例えば、農業では、温暖化によってコメやリンゴが劣化するため、高温耐性品種の開発や温暖な機構を好む品種への転換などの対策が進められます。沿岸域では、大雨による水害や土砂災害の頻度が高まるとして、堤防や下水道の整備と管理が強化されます。

これらの分野別の影響や対策は、企業の事業リスクを判断するための判断材料になります。つまり、自社の事業内容に照らして、原料調達、製造、輸送、販売などのプロセスにどのようなリスクがあるかを予想し、長期的な事業リスクを見極めるのに使うことができます。そして他方では、自社が持つ技術やノウハウを、適応事業に活用できれば、新たなビジネスを生み出すチャンスにもなるでしょう。

昨年9月に発行された環境マネジメントシステムの国際規格、ISO14001:2015では、新たに「組織の外部・内部の課題」を明確にすることが求められており、そこには「組織に影響を与える可能性がある環境状態」を含むことが要求されています(4.1項)。これは、従来のISO14001が、組織が環境に対して与える影響(いわゆる環境影響)のみを考慮し、環境に対する汚染予防を主眼としていたのに対し、今回の2015年版ではそれよりも広く「組織が環境から受ける影響」も考慮すべきことを意味しています。つまり、「環境マネジメントシステム」は、組織が環境に与える影響を管理することは当然ながら、それだけでなく、組織が環境から受ける影響も管理するものでもあるべきだということです。

そう考えると、このようなISO14001の2015年版と、今回の「気候変動の影響への適応計画」は、期せずして同じ方向性を持っていると言えるでしょう。

今回のISO14001の2015年改定は、「環境マネジメントシステムの戦略的な活用」を意図していますが、このような「気候変動への適応」に関連するリスクと機会を考慮し、環境マネジメントシステムにそれを反映させることも、このような「戦略的な活用」にとって今後ますます重要になってくるでしょう。

(参考:『日経エコロジー 2016年2月号』pp.100-101)