ISO9001:2015の変更点に関して、「改定規格では品質マニュアルの要求事項はなくなった」ということがよく言われます。しかし多くの組織で、そうは言っても審査においては品質マニュアルはやはり要求されるだろうからなくす訳にはいかない、ではISO9001:2015に合わせてどのように品質マニュアルを改訂すべきだろうか、などと悩まれていることと思います。

今回の規格で「品質マニュアル」に関する明確な要求事項がなくなったのは確かです。その意味では「品質マニュアル」という名前の文書を組織が持っていなくても、それ自体として不適合になることはありません。しかし、2015年版規格では4.4.2項で、「プロセスの運用を支援するための必要な文書化した情報の維持」することが要求されています。これは言い換えると、「自分たちの品質マネジメントシステムに関するプロセスを適切に運用する上で、それをどのような形でどの程度文書化するか」ということを組織が考える、ということです。

従来要求されてきた「品質マニュアル」とは「組織の品質マネジメントシステムを規定する文書」(ISO9000:2005, 3.7.4)のことですから、2015年版の4.4.2項の要求事項は従来の品質マニュアルに実質的に対応した要求事項と考えることができます。従来と異なるのは、そのような文書を「品質マニュアル」と呼ぶ必要はないし、その形式も従来の「品質マニュアル」にとらわれる必要はない、ということです。

では、なぜこのような要求事項の変更がされたのでしょうか。その大きな理由に、従来の「品質マニュアル」のあり方があります。今まで「品質マニュアル」というと、ほとんどの場合、規格の要求事項の構成や文言をそのままコピーしたようなものになってしまっていました。そのため、主に以下の二つの意味で、「品質マニュアル」が組織にとってあまり役に立たないものになってしまっていました。
 組織の実際の活動(プロセス)が適切に表現されていない。
 組織で通常使用されていない言葉で書かれている。

適切な「品質マニュアル」が作成されれば、それは組織の品質マネジメントシステムの全体像(適用範囲やプロセスの相互関係、それぞれのプロセスの管理の方法等)を理解し活用する上で非常に有効なものであるため、組織の品質マニュアルがそのようなものであるのであれば、それを維持すべきでしょう。しかしながら、現在の組織の品質マニュアルが、残念ながら上記のような、組織にとって(審査の場面では役立つかもしれませんが)日常業務においてはあまり役立たない内容になってしまっているのであれば、長い目で見たとき、この機会に大幅な見直しを行うことが望ましいと思われます。

例えば、現在の品質マニュアルに記載されているプロセスのそもそもの区切り方や名称は組織の実際の活動(プロセス)を適切に反映したものになっているでしょうか。2008年版規格の構成や文言に従って「製品実現化プロセス」や「顧客関連プロセス」と表現されている場合、もしかしたら組織の人々にとってはその内容を適切に理解できない(理解しにくい)ものになっているかもしれません。また、そこで使用されている言葉はどうでしょうか。例えば、「トップマネジメント」、「顧客」、「供給者」といった言葉は、組織によっては「社長」(「事業部長」、「理事長」、「院長」、「校長」等の場合もあるでしょう)、「得意先」、「仕入先」等と言った方が理解しやすいかもしれません。

品質マニュアルにどのような内容をどのような形で含めるかも組織によって異なります。小規模でシンプルな事業内容の組織においては、品質マニュアルだけで関連するプロセスの必要な程度の文書化をすべて含めることができるかもしれませんし、より大規模で複雑な組織では、品質マニュアルには品質マネジメントシステムの概要だけを盛り込み、他の詳細な支援文書を参照した方が適切な場合もあるでしょう。また、記載方法も、文章よりもフローチャートやプロセスマップといった形の方が使いやすいこともあるかもしれません。更に、情報技術が進んだ昨今では、ネットワーク上にリンクを張って必要な文書や画像などを参照できるようにしたシステムとして作成することもできるかもしれません。

いずれにしても重要なことは、「品質マニュアル」はあくまで組織が品質マネジメントシステムを運用する上で活用するためのものであり、審査機関の審査員のために作るものではないということです。そのような視点から、2015年改定を機に、組織にとって分かりやすく使いやすい「品質マニュアル」(「品質マニュアル」という名前にする必要すらありませんが)はどうあるべきかを、この機会に考えることは、改定を組織に役立てる上で非常に有用なことだと思います。

 

 

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