【ISO45001】10 改善(2)

労働安全衛生マネジメントシステムを常に改善しよう

(前回の続き)

原因究明と水平展開

有効な是正処置をとる上で特に重要なことは、インシデントや不適合の原因を適切に特定することです。ここで重要なことは、原因を検討する際に一つの原因に安易に飛びつくのではなく、問題を多面的に考え、複数の原因を特定することです。

 

また、この原因究明と合わせて、問題にしているインシデントや不適合を狭く捉えるのではなく、「類似のインシデントや不適合」の有無や発生の可能性を検討することが要求されています。これはいわゆる「水平展開」として知られていることですが、発生したインシデントや不適合からより多くの教訓を得て、できるだけ幅広く改善を行う上で重要な考え方と言えるでしょう。

是正処置の必要性の評価

インシデントや不適合の原因が特定され、類似のインシデントや不適合の発生の可能性が評価されたら、それらの情報をもとに再発防止のために何らかの処置が必要かどうかを評価します。これは、すべての不適合に対して是正処置をしなければならないというわけではないことを意味しています。10.2では「是正処置は、検出したインシデント又は不適合のもつ影響又は起こり得る影響に応じたものでなければならない」と規定されているように、是正処置とはあくまでそのインシデントや不適合の再発に関連するリスクとの関係で考えるべきものです。そのリスクと、それに対してとる処置のコストのバランスを考慮し、場合によってはそのリスクを受け入れる、という判断もあり得ます。

是正処置の実施

是正処置の必要性の評価の結果、組織がそのインシデントや不適合に対する是正処置をとる必要があると決定したら、それを実施しなければなりません。ここで注意しなければならないのは、「修正」と「是正処置」との違いです。「修正」とは、発生したインシデントや不適合それ自体に対処することであり、いわゆる応急処置(暫定処置)であるのに対して、「是正処置」は、発生したインシデントや不適合が再発しないためにその原因を取り除く、いわゆる恒久対策です。従って、修正のみで是正処置が適切に実施されなければ、問題が繰り返し発生することを効果的に防ぐことができず、常に「もぐら叩き」をしている状態になってしまいます。そうならないために、適切に「原因を除去する」処置が実施されることが非常に重要であり、そのためにも問題発生の「真の原因」を掘り下げることが重要になります。

是正処置の有効性のレビュー

是正処置は、取りっぱなしではなく、その有効性をレビューしなければなりません。「有効性」とは、ISO45001:2018で以下のように定義されています。

「計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度」(3.13)

 

従って、「是正処置の有効性をレビューする」とは、是正処置が計画した通りに実行され、それにより計画した結果が達成されているか、を見ることです。是正処置の結果、当初計画した結果が達成されたか、ということは時間が経たないと評価できない場合が多いので、この有効性のレビューが忘れられないように、いつ、誰が、どのようにこの有効性の評価を実施するかを明確にすることが重要です。

是正処置の流れ

(以前の規格で求められていた「予防処置」については、以下の関連記事をご覧ください↓)

https://j-vac.co.jpquestions_iso_preventive-action/

 

継続的改善とは?

最後の10.3では継続的改善を行うことが要求されています。「継続的改善」とは、以下のように定義されています。

「パフォーマンスを向上すために繰り返し行われる活動(ISO45001:2018. 3.37)

 

そして、この項目では以下の5つの項目を通じて労働安全衛生マネジメントシステムの適切性、妥当性、有効性の継続的改善を行うことが要求されています。

  1. 労働安全衛生パフォーマンスの向上
  2. 労働安全衛生マネジメントシステムを支援する文化の推進
  3. 労働安全衛生マネジメントシステムの継続的改善のための処置の実施に対する働く人の参加の推進
  4. 働く人及び働く人の代表に対する、継続的改善に関連する結果の伝達
  5. 継続的改善の証拠としての文書化した情報の維持・保持

 

ここではe)で継続的改善の証拠の文書化が要求されていることに注意が必要です。これはa)~d)で掲げられていることを実施していることの証拠、ということになり、例えば以下のようなものが考えられるでしょう。

  • 事故やヒヤリハット、負傷等に関するデータ分析の証拠
  • 実施された安全意識向上活動の証拠
  • 事故調査への働く人の参加の証拠
  • 労働安全衛生に関連したパフォーマンスや改善の見える化の証拠(例 掲示板、イントラネット、ニュースレター)