2015年版で「予防処置」が削除されたのはなぜ?

現在進められているISO9001、ISO14001の2015年改定。そこでの変更点の一つに、独立した要求事項としての「予防処置」が削除されるという点があります。それでは、今までの「予防処置」の要求にどのような問題があったのでしょうか。

審査をしていると、「予防処置の事例はありません」という回答に合うことが多くあります。既に起こった問題に対してとる是正処置はよく行われていても、予防処置となると本当に少ない。これはなぜなのでしょうか?

そもそも、「予防」とは問題が起こっていない時点でそれが発生するのを未然に防ぐ、ということです。となると、「予防処置」の難しさというのは、まだ起こってもいない問題を発見する難しさにあると思われます。組織を運営する中では、ただでさえ日々問題が起こるわけですが、そのような中で更にまだ起こってもいない問題の芽を発見する。これはよほどそれを見つけようという明確な意思がない限り難しいことだと思います。問題が起こってしまえば、否応なしにその問題の存在に気付かされ、何らかの対応を迫られるのに対し、問題が起こっていない時点では、それを見逃そうと思えば見逃せてしまえるわけですし、そもそもそれが問題になりうるとも思わないかもしれないわけです。それにも関らず、毎日の忙しい業務の中でそれをあえて拾い上げていこうというのですから。

また、「予防処置」のもう一つの難しさとして、予防されたことを記録として情報化することが挙げられます。つまり、通常は「予防されたことは、情報化されない、報道されない」のです(養老孟司著 『養老孟司の<逆さメガネ>』より)。これは歴史を見れば分かります。歴史はすべて実際に起こったことの記録であり、何かが「起こらなかった」ことは歴史に残りません。だから、この「起こらなかった」ことのために払われた努力も人に知られることがないのです。

今までのISO規格にあった「予防処置」に対応しようとすると、このように「予防処置」を意識的に実施し、それを記録に残すことが必要ですが、それはこのような理由から難しかった訳です。そしてこのような事情から、審査で「予防処置」についてうかがっても、なかなか回答がないことが多いのでしょう。しかしながら、だからと言って「予防処置」を本当にその組織は行っていないのか、というと、決してそんなことはありません。

私たちの日常を例に取ると、例えば朝出勤するときに「今日は雲行きが怪しそうだから、念のため傘を持っていこう」とか、「今は曇っているけど、これから晴れるらしいから傘を持っていく必要はないな」などと考えて、無意識のうちにリスクを評価し、それに対応する処置を取っています。これなどは立派な「予防処置」ですが、私たちはことさらそれを「予防処置」と意識することもなく、ましてやその結果を記録に残すこともありません。しかしたとえそうであっても実際には立派に「予防処置」を取っているのです。

このような「予防処置」特有の性質から、今回の改定では、既に発生して目の前に現れている問題に対処する「是正処置」と、発生していないが発生するかもしれない問題に対処する「予防処置」は同列に扱うべきではないと考え、「予防処置」という独立した項目が削除されたと考えられます。しかし、だからと言って「予防処置」の考え方がなくなったのかというと決してそんなことはなく、むしろ「リスクを特定し、それに対処する、というマネジメントシステムの運用自体が予防である」というように、「予防処置」の考え方がより広く、そしてより現実的なものとして捉えられるようになった訳です。

このような変更の背景を正確に理解し、改定の意図を的確に捉えてマネジメントシステムの構築、見直しをしていくことで、今回の改定をより現実に即したより良いマネジメントシステムに改善していくチャンスにしていきたいですね。(HM)